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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第112章
「牧野マネージャー。今から1時間後から2時間の間、近くのリンクを押さえておいて」
傍で固唾を飲んで見守っていた牧野が、腕時計に視線を走らせながら すぐに返す。
「はい。それにヴィヴィが公式練習に出てないと分かれば、この辺にまでマスコミが押し寄せますね。その対応も警備会社に頼んでおきます」
「頼んだわ! 先生。とりあえず、今から3時間。この子の状態が持つようにして貰えませんか?」
「コーチ……?」
何故3時間なんだ? と、ヴィヴィは怪訝そうに母を見上げる。
「ヴィヴィ、公式練習は出れなくても、試合に出られればいいでしょう?」
「……――っ はい!」
本番のリンクでは、もう何度も滑っている。
今更リンクの感触が解らないなどと、弱音を吐くつもりはさらさら無い。
「近くのリンクで集中して、最低限の確認をして。後はここに戻って、ギリギリまで休みなさい。あんたの出番は23時頃。ちゃんと間に合うように会場に連れて行ってあげるわ」
娘にそう言い切ったジュリアンは、部屋の入り口に立っていたスケ連のスタッフにも命令する。
「小林強化部長に連絡して。今日、ヴィヴィが試合を終えるまでは、完全に取材はシャットアウト。そっちで出来る限り対処してってね。但し――病気のことは一切洩らさないで。ヴィヴィは “前五輪女王で余裕” だから、公式練習なんて “あえて” 出ないの」
ヴィヴィが病気だと知れて、試合前に得する事など一つも無い。
さすが、自慢の母親 兼 コーチ。
ヴィヴィはこの日、今迄で一番彼女を頼もしく感じた。
そして、ベッドから降りたヴィヴィは、自立してその部屋にいる関係者を見渡す。
「皆さん、どうか未熟な私に力を貸して下さい。お願いします――」
そう強い意志と共に発したヴィヴィは、深々と頭を下げ、皆に最大限の協力を仰いだ。