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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第112章
休み休み、近くのリンクで調整を行い。
それから4時間、ヴィヴィはアイスハウス2に戻り、身体を休ませた。
胃部不快感がある為に絶食を言い渡され、点滴による水分補給のみ。
白湯しか口にしてはいけない状態は、ヴィヴィよりも、
スポンサーの大塚薬品工業の栄養士の方が、何も助けられない不甲斐無さで辛そうだった。
1時間かけてローゼンハイムからミュンヘンまで移動し、
会場傍に設置されている、日本のサポートハウスに入った。
ホテルの半分を貸し切ったそこは、トレーニングジム、風呂、リハビリ・カウンセリングルーム等を備え、
この五輪に参加する日本選手の為に、JOCが用意した施設だった。
移動時に係ったストレスが表れても対処出来る様に、そこで2時間休憩しながら様子を見。
そして21:30。
あらかじめ手配された警備員に、押し寄せる各国のメディアから守られながら会場入りした。
投与された胃の動きを抑制する薬剤で、胃部不快感はさほど感じなかった。
柿田トレーナーの指示の元、ヴィヴィは身体を気遣いながらアップを進める。
サポートハウスで90分も掛けて500ml点滴して貰ったので、身体の渇きは無く、逆にトイレが近いくらいで。
滑走時間が迫り、更衣室へと移動したヴィヴィは、衣装を前にして少し躊躇した。
ロッカーに掛けられた衣装は2着。
これまで戦ってきた、腰に羽根の様なリボンが付いたものに、
五輪と世界選手権の為に新調した、
背がV字に開いた布地に沿って半透明の幅広フリルが、羽根の様に縫い付けられたもの。
どちらも白くてシンプルなそれ。
「………………」
衣装を前に立ち尽くすヴィヴィに、傍に控えていたジュリアンが声を掛ける。
「どちらでも、好きな方を着ればいいわ」
「……はい」
ヴィヴィは一瞬考え込んだのち、新しい衣装を手に取った。
精霊ウィリと成り果てたジゼルが手にした羽根を、色濃く模したそれ。
7つのジャンプ、全てを飛びきれるか――。
その保証すら無い今の自分は、そんなものにさえ縋り付きたかった。