この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第112章              

 瞬時に両手を付いて立ち上がりながら、聴覚を研ぎ澄ます。

 観客の悲鳴に似た声の中から、どれだけ音楽の流れをロスしたかを把握し。

 本来入れるべきループ後の振付を飛ばし、スピンに入る。

 周りながらも自分が今、リンクのどの位置で回っているのかを確認する。

 氷面と上半身を平行に反らせ、激しく喘ぐ胸の上で、組んだ右腕を上へと延ばし、

 人差し指と中指を揃え天高く伸ばしたそれを、すぐに左手で握り潰す。

 その振付に込められた想いなんて、考えたくもない。

 レイバックスピンから、左脚を抱えてI字スピンへ移るも、回転数はギリギリ。

 今の自分には嫌味に聞こえるほど、悲劇的に啼き吠えるオーケストラの旋律。
 
 フライングから入ったキャメルスピンは、トラベリングが酷く。

 軸が安定しない中、何とか半身を反らせたヴィヴィは、両腕を緩やかに垂らしていく。
 
 長くずっしりとしたオーケストラの響きが途切れ、やっと演技後半に入った。

(ジャンプ要素は、残り4つ。もう、失敗は許されない……っ)

 ヴィオラが朗々と歌い上げる中、ヴィヴィはリンクの左端で俯きながら誓う。

 軸足の左脚に沿い、いつもより氷の屑を纏ったブレードが昇って行き、

 腰高で曲げられた右脚を、弧を描いた両腕と共に、頭よりも高い位置まで引き上げていく。

 両腕を腰前に下しながら右に向き直り、横に上げていた右脚を身体の後ろへと引き、

 常より乳酸が溜まった左脚で懸命に踏ん張りながら、氷と垂直に脚で1本の線を描いて見せる。
 
 意地で何とかバランスを取り続け、ふっと前方へと伸び上がり滑り始める。

 助走のスピードが、普段より遅くて。

 焦って漕ぐ様に氷を蹴るも、それは変わらなくて。

 それどころか力みと焦りで、体力ばかりが消耗されていく。

 バックに滑りながら、胸の前で伸ばして組んだ両腕を降ろし、

 苦しげな表情のまま、形通りの振り付けだけは熟す。

 2回転アクセル+3回転トウループ。

 高さも幅も、着氷後の流れも全く無い。

 松濤のリンクでこんなコンビネーションを飛んだ日には、

 サブコーチにiPadを突き付けられながら、延々お小言を食らう羽目になろう。

/2774ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ