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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第112章              

 そして間髪入れずに飛び上がったルッツ。

 踏み切りは集中して確実にアウトエッジに乗ったが、

 やはりスピード不足で回りきれず、2回転で降りてしまった。
 
 息が切れる。

 手足の先が痺れてくる。

 食道の粘膜同士が張り付きそうなほど乾いていて、

 その先に続く胃が、しくりと泣き始めていていた。

 そんな状態で踏み切るしかなかった、3連続のジャンプ。

 ファーストジャンプ、

 必死に両腕を絞めて軸を取ろうとした、その時、
 
 右半身を襲った激痛に、一瞬息が止まった。

「……――っ つぅ……っ」

 薄い唇から堪え切れない苦痛の声が漏れる。

 頭の芯が痺れていた。

 自分が転倒したという事実だけは把握出来るのに、次に何をしていいのか解らず。

 咄嗟に打ち付けていない左手と左脚で身体を起こし、頭を上げ――。

「………………」



 目の前に広がる白い世界に、ヴィヴィは文字通り固まった。



 どれだけ目を凝らしても、

 視界に入るのは、

 ただただ白い氷ばかりで。



(……ヴィヴィ……、ここで、なに、して……?)



 その時のヴィヴィはといえば、

 引かぬ疼痛と、軽い脳震盪で、自分を見失っていた。
 
 ぞっと腰から這い上がる悪寒。

 はっと見開かれた大きな瞳に浮かぶのは、明らかな恐怖の色。



 ここは、

 ここは、こんなに広かっただろうか――?


 幼児の頃から慣れ親しんだリンクは、

 どこの会場でも大差ない面積の筈なのに。



 こんなにも静かで、


 こんなにも心細くて、



 こんなにも “冷たい場所” だっただろうか――?



 このままではいけないと判ってはいるのに、

 氷に根が這った様に、ピクリとも動かない四肢。



(ヴィヴィ……なんで、こんな、と――)


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