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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第112章
五月蠅いほど鼓動する心臓も、
切れて苦しい息も、
しくしく痛み始めた胃も、
全てがすべて、
自分が生きているという事を、嫌でも思い知らせてくる。
礼を終えた自分の周りに散らばる、無数の贈り物を目にした途端、
薄い胸の奥に、言い様の無い虚しさだけが込み上げてきた。
「………………」
自分は、一体、何をしてるんだろう――。
こんなにも心が空虚で、
今すぐ日本に飛んで帰って、
愛する人の無実を確かめたいのに。
なのに、
今の自分は、
世界中に無様な演技を見せて、
両腕で抱えきれないほどの、大勢の人の期待を裏切って。
「……――っ」
ずきりと大きく胃が痛み、ヴィヴィは両腕で薄い腹を庇いながら、
俯いたままリンクサイドへと戻って行く。
『ヴィヴィ。例えどんな結果になっても、後悔しないのね――?』
母のその確認に、
『試合に出なくて後悔するより、無様な内容でも出場したほうが、よっぽど幸せです』
そう決意を口にしたのは、紛れもない自分自身。
リンクを取り囲むフェンスまで戻ったヴィヴィを、ジュリアンは両腕を伸ばしてその胸に抱き竦めた。
「偉かったわ、ヴィヴィ。偉かった……、ちゃんと、最後まで滑って……っ」
「………………」
母の労いの言葉も、ヴィヴィには詭弁にしか聞こえなくて。
まだ切れたままの荒い息遣いで、苦しそうにその腕に抱き締められていた。
「ヴィヴィ、おいで。座ろう」
やがて解かれた抱擁の先、
クリスが肩を抱いて支え、ヴィヴィをキス・アンド・クライへ連れて行く。
エッジが痛むからエッジカバーを着けたいのに、それさえも億劫で。
全身を濡らす異常に冷たい汗を拭う為、渡されたタオルに顔を埋め、
そのまま苦しくて、動く事が出来なかった。
何故か小刻みに震え続けている身体。
日本代表ジャージを肩から掛けてくれたクリスが宥める様に、その上から全身を擦っていた。
「ヴィヴィ、気持ち悪い?」
「吐きそう? バックヤードに下がる?」
両隣から確認される問いに、ヴィヴィはタオルに埋めた顔をゆるゆると振る。