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第112章 　 　　　 　 　 　　　

　しばらくそうしていると、やっと息が整い始め、

　ようやく面を上げた娘の、その青白い顔を、

　ジュリアンが両掌で挟み込み、覗き込んでくる。

「ヴィヴィ、いい？　ヴィヴィは今出来る、ベストを尽くしたわ」

「………………」

「だから、何も悔やむ事なんてない。誰だって体調不良の時はあるんだから」

　いたわってくれるその言葉は、暖かいものなのに、

「そうだよ、ヴィヴィ。本当に良く、頑張ったね」

　ねぎらってくれるその言葉は、クリスの気持ちが籠ったものなのに。

　ヴィヴィにはまるで透明な硝子越しに、

　サラウンドで母と兄が囁き掛けている様な、　

　そんな妙な距離を感じていた。



『The free skating score of Victoria Shinomiya from japan is １２３．９４ points.

　Total score is ２０２．４５ points.

　Her ranking is the ５th place.』



　会場中に響く戸惑いのどよめきと、

　予想外の結果で優勝した国の観客の、悲鳴じみた歓声。

「………………」

「ヴィヴィ。よく頑張った。さすが僕の自慢の妹。偉かったね」

「そうよ。マム、ヴィヴィがここまで滑れるとは、思わなかったわ。本当に頑張ったわね」

「アクセル、加点ついてる。凄いね」

「あら、フリップからのコンビネーションも、ＧＯＥ高いわ～」

　耳元で母と兄が交互に自分に吹き込んでくるのに、ヴィヴィはただ茫然と座り込むだけで。

　目の前の液晶画面に表示された女子シングル最終順位を、放心して見下ろしていた。



１位　ヴィヴィアン・リー（アメリカ）
　　　ＳＰ２位　ＦＰ２位――２２３．５９　

２位　ユリア・リプニツカ（ロシア）
　　　ＳＰ４位　ＦＰ１位――２２０．１１

３位　マリア・ソココワ（ロシア）
　　　ＳＰ３位　ＦＰ３位――２１７．７３

４位　ガブリエル・ドールマン（カナダ）
　　　ＳＰ５位　ＦＰ４位――２０６．５３

５位　篠宮　ヴィクトリア（日本）
　　　ＳＰ１位　ＦＰ９位――２０２．４５