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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第112章
「篠宮選手……、あの、宜しいですか? そろそろ……、各国のインタビューが、控えています」
余程その場に長い間 留まっていたのだろう。
会場スタッフと通訳ボランティアが、心苦しそうな表情で自分の事を待っていた。
「……すみま、せん……」
演技を終えて初めて発したその声は、かすかすで。
咽喉の渇きを癒したくて、クリスにペットボトルを身振りで頼む。
体内温度近くのその温い水で咽喉を湿らし、ヴィヴィはようやく腰を上げた。
ゆっくり立ち上がったその肩から、日本代表ジャージが滑り落ち。
それにさえ気付かないヴィヴィに、クリスが拾ってまた掛けてくれる。
本当は、そこには不文律があって。
演技直後には代表ジャージに袖を通し、前のチャックを閉め、
縫い止められた自国の国旗を、見せないといけないのだが。
立ち上がって歩き出した途端、平衡感覚が怪しい事に徐々に気付き始めた。
身体がだるくて、両脚が鉛の様に重くて。
でもいつ間にしたのか、エッジカバーは装着していた。
バックヤードに入った途端、
視界がぐにゃりと歪み、目がぐるぐる回る感覚がした。
咄嗟に左腕を伸ばし、壁に手を突くも。
それだけでは支えられなくなった身体が、壁の方へと崩れていく。
気持ち……悪い……。
またどっと噴き出した冷や汗が、背中を伝い落ちていく感触だけが、妙に生なましくて。
(誰か……助け、て……)
「ヴィヴィ……っ!?」
母の細い悲鳴が、鼓膜を震わす。
黒く塗り潰されて行く視界に、
誰かが顔を隠す為に、ジャージを被せてくれたのだけは映った。
(たすけて……っ おにい、ちゃん……)