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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章
以上の内容で、今大会開催地のドイツ語をはじめ、
日本語、英語、ロシア語、フランス語、中国語で撮影したものをHP上で公開した。
それらは各国で、その日のニュースや情報番組で取り上げられたのだった。
「ヴィヴィの、傍にいたい……」
そう言って聞かないクリスを、20時から始まる閉会式へと無理やり送り出し。
付き添ってくれる父に、ヴィヴィは匠海についても一連の説明を求めた。
昨年の10月頭。
匠海はお見合いの席にて安堂 瞳子という女性と出会い、意気投合し。
妊娠が発覚したのは、12月に入ってからだったらしい。
両親に知らされたのは、今年の1月半ばで。
その頃は双子の五輪前で、壮行会等が続きバタバタしていたのもあり、
父も母も、まだその恋人には直接会ってはいないという。
「確か、今日がちょうど、4ヶ月目だったよ……」
指折り数えるグレコリーに、ヴィヴィはただ「そう……」と呟き。
その後はホテルのベッドヘッドに背を預け、ぼんやりと時を過ごしていた。
父は同じ部屋のデスクで、ノートPCで仕事をしていたらしい。
娘が急変するのではと心配で、帰国予定日を過ぎても傍にいてくれる父に対し、
ヴィヴィは感謝を通り越し、申し訳無さしか感じていなかった。
22時を過ぎた頃、
ボン、ボン、と、どこかさほど遠くない場所から、重低音が轟いてきて。
さすがのヴィヴィもそれには気付き、俯いていた顔をゆっくりと上げる。
「………………?」
少し離れたデスクに腰掛けている父が振り返り、互いの視線がかち合う。
「……花火、かな?」
レースのカーテンだけが引かれたホテルの窓。
その先に広がる夜のミュンヘンは、五輪最終日に沸いているのだ。
勝った者にも、負けた者にも。
自分の実力を出し切った者にも、
4年間の努力を1握りも発揮出来なかった者にも。
夜は平等に訪れ、
そして、五輪の終わりも確実に訪れる。
「………………」
せめて、クリスにとって楽しい思い出が、閉会式で出来ていれば良いのにと思う。
妹の自分が倒れてから、クリスは金メダリストだというのに、全然五輪を満喫出来なかった。