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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章
申し訳なくて俯くヴィヴィの傍らに、長い影が落ちる。
その影の主はベッドの隅へと腰掛けると、俯いたその頬に掌を寄せ、
「ごめんな、ヴィヴィ……」
そう、辛そうに謝った。
「……え……?」
擦れた声と共に顔を上げたヴィヴィの目の前、父が苦しそうに言葉を継ぐ。
「私が、うっかりしたせいで……」
「……――っ ち、違う。ダッドのせいじゃない……」
息を呑んだヴィヴィは、すぐに父の言葉を否定する。
父も、もちろん母も周りの皆も、誰一人悪くない。
兄の恋人が妊娠した。
その事実は、驚きこそすれ、喜ばれるべきことで。
ましてやショックを受け、前後不覚になって取り乱すなど、あってはならない事なのだ。
何故なら自分は、
匠海の血の繋がった妹――なのだから。
「いいや……。それでなくても、五輪期間中で精神的にも肉体的にもナイーブになっている時に、あんな……いきなり秘密にされてた事を告白されたら、ストレスだよ……。それはやっぱり、胃に来てしまうのも仕方がない……」
続く父の懺悔の言葉に、ヴィヴィは虚しさで、もう何も言葉にならず。
ただ子供の頃の様に抱き締めて欲しくて。
掌が添えられた頬を、父の胸へと押し付ければ、やはり娘に激甘の父は、
ここ数日で体重が落ちてしまったその身体を慰める様に、己の広い胸へと仕舞い込んだ。
翌日、2月25日(土)。
双子と両親は揃い、ミュンヘン国際空港 15:30発の航空機で五輪の地を後にし、
翌26日(日)、9:50に羽田へと降り立った。
世界選手権まで表に出ないとしたヴィヴィは、父とファーストクラス専用出口から帰宅の途に就き。
金メダリストのクリスは、行きと同じく日本代表選手団の公式服装に身を包み、
ファンでごった返す表出口から、他の代表選手達と帰国の姿を披露した。
12日ぶりに帰宅した我が家は、今のヴィヴィにとってはホッと出来る場所では無くなっていた。
匠海は出掛けている様で屋敷にはおらず、
久しぶりに顔を合わせた自分の執事と「ただいま」の挨拶を交わした直後、
「また、心配掛けちゃった、ね……。ごめん」
自分の事を本当に大切に思ってくれている朝比奈の気持ちが分かるからこそ、ヴィヴィは余計に辛かった。