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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章
「いいえ。お嬢様の無事な姿をこの目で確認出来ただけで、私は幸せですよ」
労りの言葉をくれる朝比奈に促され、ヴィヴィは暖かな湯に浸かり、長い移動時間の疲れを和らげた。
風呂から上がり、私室の書斎でPCを立ち上げる。
教養学部のHPの中から“ 教務課からのお知らせ” を開けば、
明日から始まる “法学部 第4学期専門科目試験” の時間割と教室番号、六法等の持ち込み許可の有無について掲示されていた。
2月27日(月) ①ヨーロッパ政治史 ②日本近代法史
2月28日(火) ①政治学 ②刑法第一部
3月 1日(水) ①民法第一部 ②法社会学
3月 2日(木) ①憲法第一部 ②国際法第一部
3月 3日(金) ①経済学基礎 ②国際政治
5日間で10教科。
この半年間、講義を受けたそれらは予習復習を欠かさなかったとはいえ、論述式の試験ばかりでやはり不安もある。
PCのメールボックスを開けば、膨大な数のメールが寄せられていた。
それらほとんど全てが、ヴィヴィの病状を気遣うものだったが。
申し訳ないがそれらは後に回し、その中からクラスメイトから来たものだけをピックアップして、試験に係る連絡事項等を読み込んでいく。
そのまま、翌日の試験に向けて勉強をしていると、書斎の扉がノックされた。
「どうぞ」
基本六法を繰りながら返事をすれば、
「ただいま……」
そう言って顔を覗かせたのは、まだ公式服装に身を包んだままのクリス。
「おかえりなさい。……疲れてる、ね?」
空港で別れた後、クリスは1人で 日本外国特派員記者クラブ での会見に臨んでいた筈。
「そんなこと、ない……。でも、2時間、質問攻めにはされたよ……」
そう言って紺ジャケットの肩を竦めたクリスからは、やはり疲労が滲み出ていて。
ヴィヴィは革張りの椅子を引いて立ち上がると、大きなデスクを回り込んでクリスの傍に寄る。
持ち上げた右手を双子の兄の額に当ててみれば、とりあえず熱は無い様でほっとする。