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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章          

 謝罪を口にする妹に、クリスがばっと顔を上げて睨んでくる。

「―――っ 何で……、何でヴィヴィが謝るのっ? 悪いのは――」

 常なら絶対に無い、大声で怒鳴る双子の兄。

「クリスはっ!」

 それに負けない様、ヴィヴィも腹から搾り出した声でクリスを止める。

 ぐっと口を噤んだクリスに、ヴィヴィは金色の頭を弱々しく振りながら続ける。

「クリス、は……、お兄ちゃんの事、大好き、なのに……っ なのに、こんな事、させた……」

 何かとちょっかいを出しては弟を可愛がる兄と、

 うっとおしそうにしながらも、そんな兄を尊敬し憧れている弟。

 2人は兄弟として、家族として、掛け替えの無い絆で結ばれた、本当に仲の良い間柄なのに。

(ヴィヴィが……、ヴィヴィが、2人の関係まで、変えてしまった……)

「………………っ」

 洗面台に視線を落としたクリスは、薄い唇の奥、歯を食い縛りながら首を振る。

 そして、行き場の無い怒りをぶつける様に、拳で陶器のそこを殴り。

 再度、殴り付けようとするする拳を、ヴィヴィは駆け寄って後ろから羽交い絞めにし、何とか止めさせる。

 力の込められた拳は、しばらく握られたままだったけれど。

 後ろから抱き締めていたヴィヴィには、クリスが脱力していくのが伝わってきた。

「本当に、ごめんなさい……」

 謝るという行為を押し付ける事さえ、驕りだと解っている。

 けれど、もうそれ以外、何を言えばいいのか判らない。

 クリスには何の非も無いのに。

 なのに、一番近くで妹の苦しむ姿を全て目にし、

 試合で無残に崩れる姿を、誰よりも近くで強制的に見せられた。

(あの時も、あの時も……、クリスは、止めてくれたのに……)

 FP前夜。

 父からの語られた真実に我を失ったヴィヴィは、もう少しで両親の前で暴露するところだった。



『恋人……? 何言ってるの?

 お兄ちゃんの恋人は、このヴィヴィだよ――?』



 加えて、

 何が何でもFPを滑ると主張するヴィヴィを、心身共に気遣って止めてくれたのもクリス。

 なのに、自分は感謝こそすれ、八つ当たりをして我を通し。

 挙句の果てには意識を失い、クリスに余計な面倒まで背負わせた。

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