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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章
全ての諸悪の根源は、間違いなく自分であり、
そして、
この一連の件で、一番苦しんでいたのは他でも無い。
兄と妹の間で、板挟みになるしかなかったクリス――だ。
クリスが落ち着き、湯を使い始めた頃。
ヴィヴィは匠海の部屋へと向かったが、もうそこには居なくて。
翌日から始まった、各学部の第4学期専門科目試験の期間中、兄が篠宮邸に戻る事は無かった。
その間、ヴィヴィは少しずつ食べる量を増やしていき、
すぐ目の前まで迫っている世界選手権で、4分間滑りきる体力を徐々に取り戻して行かなくてはならなかった。
早朝からリンクで滑り、朝昼は大学で試験を受け、
ディナーまで試験勉強した後、またリンクで滑り込む。
その5日間、何が辛かったかというと、大学の友人達の前で明るく振る舞うことで――。
もちろん、自分が屋敷にいる時間に帰宅しない匠海に対して、薄い胸の中では徐々に黒い渦が膨れ上がり、
苛立ち か 焦燥か、
絶望 か 達観か、
自分でも判別が付かない、ごちゃまぜの感情を持て余してはいたが、
ただ、目の前にいない兄には、何も確かめるすべが無くて。
気遣ってくれる友人達に笑顔の仮面を張り付けたヴィヴィは、なんとか5日間の試験を乗り切る事が出来た。
なのに――、
「お嬢様。明日――4日(土)に、匠海様がお戻りになります」
大学から戻ったヴィヴィに、開口一番に伝えてきた朝比奈。
「え……?」
強張った小さな顔で見上げてくる主に、
「安堂 瞳子様をお連れになられます。婚約の日取りが決まり、その挨拶でお越しになるそうです」
そう粛々と続ける執事。
「………………」
もう何が何だか解らなくて。
狼狽えた表情を隠しもしないヴィヴィに、朝比奈は腰を屈め その瞳を哀しそうに覗き込む。
「お時間は15時からです。どうされますか?」
自分の執事のその言葉に、ヴィヴィは二重の意味でショックを受けていた。
兄が結婚を前提に相手と付き合っていた事実、を突き付けられた事と、
朝比奈が自分に対し「どうしたいか?」と伺いを立ててくる、その真意――。
(朝比奈……貴方、まさか……っ)