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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章
「私は “今回に限っては” お嬢様のお心のままに行動されても良いのではと思っております。だから仰って下さい。お嬢様は、どうされたいのですか――?」
ヴィヴィの抱える罪も苦しみも全て承知した上で、朝比奈は今回限りは手を差し伸べようとしてくれていた。
「……いや……。あ、会いたくない……っ」
そう口にしてしまえば、何とか胸の奥で押え付けていた感情が、内から内から溢れ出してきて。
涙を浮かべて懇願するヴィヴィを、朝比奈は尊重してくれた。
「解りました。明日、私がリンクまでお嬢様をお迎えに上がります」
「え……?」
「明日、お嬢様は15時からカレン様とお会いする約束を、前もって取り付けていた――そう、旦那様にお伝えしておきます」
自分の執事のその逃げ口上に、ヴィヴィは小さく頷き、
進退窮まったように白革のソファーに腰を下ろし、両腕で頭を抱えた。
3月4日(土)。
早朝からリンクへ向かった双子は、常と同じくトレーニングを積み、
リンク傍のカフェテリアで、母と一緒に朝食を採った。
料理長が用意してくれるそれを、毎朝 朝比奈が温めて皿に盛り付け直し、供してくれる朝食。
特にヴィヴィのものは、栄養士が慎重に計算し、用意されたものだが。
いつもより食事のスピードがのろい娘を、ジュリアンがじいと見つめてくる。
「ヴィヴィ。3食ちゃんと食べてる?」
「……え? あ、はい……」
コーチからの問いに、きちんと出されたものは完食しているヴィヴィが頷く。
「そう? なんか、全然体重が戻ってないように見えるけれど」
母の鋭い見立てに、ヴィヴィは困った様に皿に視線を落とす。
確かに。
双子は毎日、柿田トレーナーと身体チェックをしているのだが、何故か体重と体脂肪が上がってこない。
本当に、出された物はちゃんと食べているのに。
「ヴィヴィは食べてますよ……。僕がいつも一緒に、食事を採っていますから……」
クリスの助け舟に、ジュリアンは「そう?」と微かに首を傾げ。
「世選まで、あと1週間……。摂取カロリー増やして貰うよう、言っておくわね」
コーチとしてのその言葉に、ヴィヴィは頷き、
いつも感動する程美味しい料理長の食事を、何とか胃の中へと押し込んだ。