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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章
昼まで、氷上と陸上でのトレーニングを熟し、双子は午前中の予定を終えた。
フィットネスルームで、念入りにストレッチをし、
「じゃあ、荷物取って、ロビーでね……」
そう告げてくるクリスに、ヴィヴィはおずおず口を開く。
「あ、あの、ヴィヴィ。これからカレンと会う用事、あって……」
嘘を吐くなら、もっと堂々と吐けばいいのに。
強張った表情の妹を、クリスはぽんと金の頭を撫で、
「そう。じゃあ、カレンによろしく言っておいて……?」
そう言い残して、ロッカールームへと戻って行く。
「………………」
その後ろ姿を見送ったヴィヴィは、疲れた表情で俯き、
やがてシャワーを使いに、ロッカールームへと下がって行った。
朝比奈の車に乗せられて、幾時か経って。
停車したそこで、主従は無言のままだった。
「部屋をお取りしましょうか?」
乗り込む時にそう確認してくれた朝比奈に、ヴィヴィは緩慢に首を振った。
どうせまた19時から、夜のレッスンが始まる。
たった6・7時間の為に、そんな贅沢をする気にもならず。
執事が当てもなく転がす車に、黙りこくってその後部座席に留まっていた。
何も考えたくなかった。
ドイツから帰国して、もう6日も経つというのに、自分の置かれた状況は何一つ変化無く。
匠海と顔を合わせたのも、帰国したその日の、たった一瞬。
その6日間の間、ヴィヴィがしていた事といえば、
進級のかかった試験を受ける事、
3月半ばに開催される世界選手権に向けての練習をする事、
数千通にのぼるメールに対し、少しずつ返事を返す事、
自分を慰める為に届けられた財界のトップからの見舞いの品々に対し、お礼の返事とお返しの物を指示する事、
――たった、それだけだった。
前進も後退もならない。
怒っていいのか、
己を責めればいいのか、
それさえも、判断が付かない。
何故なら、匠海が自分と対峙してくれないから。
だから、ヴィヴィは取り残されたままだった。
気持ちは五輪のFP直後のまま。
世界選手権で、五輪FPの借りを返す――。
そんな気持ちにさえなれない。