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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章          

 笑うのが辛い。

 明るく――今迄通りの能天気な自分、を演じるのが苦痛だった。

 無邪気な少女のイメージが強い『girls』に対しても、今の自分には不釣り合いに思え当惑していた。

 そんな時にこの手紙を頂いて、ヴィヴィの心は大分軽くなったのだ。

「…………ふぅ」

 桜色の口紅を塗ったそこから、細い息が吐き出される。

(笑えなかったら笑えなかったでいいじゃない……。無理に微笑む姿なんて、痛々しいだけでしかないんだから……)

 お守りとして荷物に忍ばせてきた手紙を元に戻すと、覚悟を決める。

「……っ っしゃ~~っ!!」

 更衣室の隅で両の拳を握り締め、おっさんみたいな気合の声を上げたヴィヴィ。

 そこにいた外国人選手達は、ぽかんとその姿を振り返り、

 滑り終えて戻っていた本郷 理香は、ただただ苦笑していた。

 そうして臨んだSP。

 もちろん五輪のSPの78.51という高得点には届かなかったが、それでもヴィヴィは納得の演技で終え。

 SP1位で、2日後のFPへと進む事となった。






 3月17日(金)、17:10から行われた男子シングル FP。

 クリスは五輪の疲れも見せず、貫録でトップに立ち。

 五輪、世界選手権の2冠を、4年前と同じく達成した。

 そしてその頃、華々しい快挙を達成したクリスの陰では、嫌な雰囲気が漂い始めていた。

 五輪のFPで自滅したまま、一度も公式な場で喋ろうとしないヴィヴィ。

 前日のSP直後のインタビューにさえ応じず、

 ISU公式記者会見にも姿を見せず、

 ましてやSP上位3名に対する、スモールメダル授与式にも不参加。

 恒例のそれらの行事に参加しない態度に、徐々に不平不満の声が上がり始めていた。

 特に「篠宮から何としてでもコメントを取れ!」と上からどやされ続けた、メディア関係者から。

「ちょっと、調子に乗ってるんじゃない?」

「いつまで悲劇のヒロイン、気取ってるんだよ……」

「元々、お嬢サマだしな。1/4しか日本の血が流れていないんじゃ、日本の慣例を理解出来なくても仕方ないんじゃ?」

 彼らがそう言い始めるのも仕方の無い事。

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