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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章
そういう不満と要望はスケ連へと陳情され、それを伝えられたヴィヴィ サイドは、
「明日のFP終了後のインタビューにも応じますし、ISU公式記者会見にも参加します」
との返答を返し、何とか事無きを得たという状態だった。
3月18日(土)、大会4日目。
昼過ぎから始まったアイス・ダンス FDも終え。
残る競技は女子シングル FPだけとなっていた。
17:10から始まったFP。
32名中24名が進めるそれの、最終グループ・第4グループの3番滑走となったヴィヴィ。
松濤のリンクで滑り込み、そのまま埼玉まで移動しての現地入りとなった。
移動中、柿田トレーナーが用意してくれたFP『ジゼル』の良い演技セレクションの動画を散々見て、いいイメージを持ててはいたのに。
いざ会場入りすると、ヴィヴィは憂鬱で仕方がなかった。
IDカードを首から下げ、誰にも聞かれぬ小さな嘆息を漏らす。
「………………」
どうして、今の自分が『ジゼル』を滑らないといけないのだろう。
そんな考えても仕様の無い事が、ぐるぐると頭の中を駆け巡っていた。
匠海はまだ、自分の前に姿を現さない。
だから、何も状況は変わっていない――あの、五輪FPの演技後から。
そうは言っても時間は止まってくれない。
トレーナーに促されてアップをし、
ジュリアンに付き添われて、更衣室で白い衣装へと袖を通すしかない。
その時の気分はといえば、
独房に何十年も入れられていた死刑囚が、執行の刻を知らされ、
死に支度を淡々と進められている状況、にも似通っていて。
「…………ふっ」
思わず漏れた嗤いに、近くに腰を掛けていたジュリアンがちらりと振り向き、
けれど、
戸惑いばかりを浮かべていた娘の瞳に宿り始めたものを見て、苦笑して視線を外した。
(死刑囚か……。いいな、それ……)
さしずめ今のヴィヴィは、
伸びた無精ひげをあたり、顔を洗い歯を磨いて。
ついてしまった強情な寝癖を濡れた指で撫で付けている、
――そんな死刑囚、といったところか。
そして裁きの場は、冷たい絞首台ではなく、
18,000人の観衆が見つめるリンク。
(コロッセオ……的な? ふふ……)