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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章          

「そんなお人好しになれるかっての! ヴィヴィ、超 我が儘お嬢だもんっ てか、そんな風になりたくなんてないし。ふんだっ!!」

 目蓋を閉じたまま、ロシア語でぶつぶつ零す娘を、ジュリアンは若干呆れ顔で見つめ。

 けれど、その表情はいつもと同じ、娘を信頼したものだった。

 前の滑走者の演技が終わり、盛大な拍手が贈られるが、

 そんなものはヴィヴィの耳にも目にも入っていなかった。

(絶対にパーフェクトな演技をしてやる……っ こんにゃろ、見てろよ~~っ!!)

 半ばヤケクソ気味に、リンクへと入っていくヴィヴィ。

 滑走時間が近付き、日本代表ジャージを脱いだヴィヴィに、観客からどよめきが上がった。

 ひとつは、

 その身に纏っているのが、五輪・個人戦FPの悪夢を彷彿とさせる衣装であった事。

 そして もうひとつは、

 2日前のSPでも囁かれていた「篠宮選手、痩せたかも?」という疑惑を確定させるほど、
 
 更に細くなってしまっていた、その身体――に。





 そして、蓋を開けてみれば、

 ヴィヴィは文字通りパーフェクトな滑りを見せた――技術的なものに関しては。

 女子シングル 総合順位は、下記の通りとなった。


1位 篠宮 ヴィクトリア(日本)

2位 ヴィヴィアン・リー(アメリカ)

3位 マリア・ソココワ(ロシア)


 確約していた演技直後のインタビューも、ISU公式記者会見もきちんと出席したヴィヴィ。

「今日まで私事で我を通し、皆さんの前でお話ししてこなかった無礼を謝罪します」

「五輪のFPの演技に失望していましたが、今日のFPである程度の自信は取り戻せました」

「日本に五輪のメダルを持ち帰れなかった事を残念に思っていますし、役目を果たせなかった自分を不甲斐なく思っています」

「五輪を終え、そして世界選手権を終えて思うこと……は、自分は本当に多くの人に支えられ、立てているのだなとより実感し、更に深く感謝をしました。今日まで見守り、応援して下さったファンの方々に、ありがとうと伝えたいです」

 言葉を選びながらしっかりとした口調で喋るヴィヴィに、沢山のカメラのフラッシュが焚かれ、

 やっと口を開いた元五輪女王の言葉を、一言も聞き逃さないとでも言うように、

 皆が熱心に現世界女王の言葉に耳を傾けていた。
 


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