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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章
最終日の3月19日(日)。
午前中はエキシビションの練習が行われ、夕方から行われたエキシビション。
22:30にはクロージング・バンケットも終了し、双子は揃って屋敷へと戻り。
五輪と世界選手権――大きな試合を何とか乗り越えた事を讃え合い、床に就いた。
3月20日(月・祝日)。
ヴィヴィはこの日の事を、一生忘れられないと思う。
ドイツから帰国して3週間経ち、匠海はヴィヴィの前にようやく姿を現した。
早朝からのレッスンを終えて帰宅し、湯を使いバスルームから出ると、そこにいたのだ。
白革のソファーに、長過ぎる脚を投げ出すように座り込んだ、いつもと変わらぬ兄が。
「………………」
何となく、今日あたりに会う事になるんじゃないかとは思っていた。
兄は兄なりに、妹の事を思ってはいてくれたという事だろう。
もし帰国した直後に、真実を告げれば、
翌日からの進級試験も2週間後の世界選手権も、手に付かなくなると判断したのだ。
そしてその真実とは、ヴィヴィにとっては最悪の事実という事になる。
ロングカーデに細パンツ姿の匠海は、
バスルームの戸口で凍りつき、微動だにしない妹を見つめていた。
匠海のその様子から自分から話すつもりは無いように見え、ヴィヴィは兄から目を反らす様にゆっくりと目蓋を閉じる。
決着をつけなければならないのだ、もう。
必死に抑え込んで考えない様にしてきたもの達が、もう耐え切れずに腹の底から湧き上がってくる。
けれどその感情をすぐさま口から出すには、時間が経ち過ぎて逆にこんがらがっていた。
洗いざらい全てぶちまけたいのに、咽喉がつかえて吐き出せない。
その苦しさを訴え、顎下の柔いところが、引き攣れて震えていた。
ゆっくりと持ち上げた目蓋の先、長い睫毛が小刻みに揺れる。
「嘘……だよね……?」
最初に零れたその言葉は、ヴィヴィの気持ちを全て物語っていた。