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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章          

「どれが、だい?」

 兄のその返しに、ヴィヴィはぐっと詰まり。

 けれどこれだけは確認しなければならない事を、真っ先に口にする。

「お兄ちゃんの、子供……出来たって……」

 塞がる咽喉から何とか絞り出したその問いに、

「ああ、作ったよ」

 何でも無い事のように即答した匠海に、ヴィヴィは両の拳を握り締めた。

 顔から血の気が引いていく気持ち悪さを感じながら、薄く開けた唇から浅い呼吸を繰り返す。


『ああ、作ったよ』


 その言葉が全てを物語っていた。

 父から説明を受けた通り、

 匠海は見合いで意中の相手を認め、交際し。
 
 そして性交を持ち、子を為した。

 それも計画的に “作った” のだ。

「………………」

 真実を知ったヴィヴィは、ただ兄をぼんやりと見つめていた。

 いつもと変わりないその姿。

 自信に満ち溢れていて、凛々しくて、

 本当は人をおちょくるのが好きなのに、

 それを優しさのベールで包み込んで隠す人。
 
 自分が心から愛してやまない男。

 やがてその姿がぼんやりと霞みだし、 

 頬を濡らす冷たいものに気付く。

 知らぬ間に溢れ出ていた涙に、ヴィヴィは耐え切れずに兄から顔を背けた。

「……――っ」

 信じたかったのだ、この人を。

 誰が何と言おうと、自分は愛する兄の言う事を信じようと思っていた。

 なのに、

 その匠海自身に真実を告げられて、

 3週間も猶予があったのに、

 自分は予想していなかったその先を、何も考えて来なかった。

 戸口に立ちつくしたまま、数分が経ち。

 その沈黙の中、匠海が口を開く。

「ヴィクトリアには、篠宮の跡取りを産ませられないだろう?」 

 ぎしりと革のきしむ音に、重ねられる言葉。

「お前は俺の子供を宿す事が出来ない。だから他の女と作った」

 聞きようによっては「ヴィヴィが悪い」と責めている様にも聞こえる兄の言い分。

 けれどそれよりも、ヴィヴィは他の事に釈然としないものを覚え、

 いつの間にか自分の傍まで寄っていた兄を、怪訝な表情でふり仰ぐ。

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