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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章
「……おにい、ちゃん……?」
「なんだ?」
涙で濡れそぼった青白い頬を、兄の長い指が拭ってくる。
「……その人、の、こと……」
そこまで言って胸が苦しくなったヴィヴィは、くしゃりと顔を歪めて押し黙る。
(本当は、そんなこと、確かめたくなんて……)
「愛してるのかって?」
言葉を継いだ兄に、妹の頬を更に涙が伝う。
「………………」
そうだ。
先程から、兄の主張に違和感を覚えていた。
相手を愛したから子供が欲しくなり、その行為に及んだ。
もしくは、
相手と愛を確かめ合った結果として、子供が出来た。
そのどちらかだと思っていたのに、
なのに、匠海はずっと「子供を作った」とばかり繰り返し、
ただの一度も、相手に対する愛情を見せてこない。
「どういう返事がいいかな?」
「……え……?」
「俺が「瞳子を愛している」と言えば、お前は満足なのか?」
「……――っ」
兄の意地の悪い問いに、ヴィヴィはぐっと歯を噛みしめる。
どうして?
何でそんな事を言うの?
他の女を「愛している」と言われるのも、
「愛していない」と言われるのも、
どちらも嫌に決まっているじゃない。
だって、
ヴィヴィは……
ヴィヴィは、お兄ちゃん、の――
辛そうに顔を歪める妹を、匠海は嘆息と共に見下ろす。
「俺はそんなに器用な男ではないし、移り気もしない。俺が愛しているのは、ヴィクトリア――お前だけだよ」
「………………」
その告白に、頭の中が一瞬真っ白になって。
兄の真意を計ろうとした思考が霧散し、
問うべき言葉すら出て来ない。
(……な……に……? 何……、言って……?)
まさかの兄の答えに、狼狽えるヴィヴィに対し、
目の前の匠海は、まるで言い含める様に柔らかな声音で続ける。
「この2年4ヶ月――もう何百回と伝えただろう? 心からヴィクトリアを愛している、と。俺がそう囁くと、お前はいつも幸福の微笑みを見せてくれたのに。なんだ、信じていなかったのか?」
少し拗ねても見える兄の表情は、ヴィヴィにだけ甘えん坊の恋人の表情で。
覗き込んでくる灰色の瞳は、いつも「好きだよ」と甘く囁く時の瞳で。