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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章          

「ん? 久しぶりで緊張しているのか? 可愛いな」

 その笑みを含んだからかいに、ヴィヴィは咄嗟に兄の胸板に両手を突く。

「離して……っ いやっ はなして――っっ!!」

 力一杯匠海を押し返すヴィヴィは、悲鳴にも似た細声を上げる。

「ヴィクトリア?」

 緩んだ抱擁から逃げた妹に、匠海が距離を詰めようとするが。

「いやぁ……っ 触らないで、ヴィヴィに触れないで……っ」

 嫌だ。

 嫌だ、触らないで。

 他の女を愛した手で、ヴィヴィに触れないで――!!

 あからさまな拒絶の表情を浮かべる妹に、兄は歩み寄るのを躊躇し。

 その隙に、ヴィヴィは先程までいたバスルームへと逃げ込み施錠する。

「……ヴィクトリア……」

 ドア越しに聞こえる、兄のくぐもった声。

「………………っ」

 少しでも離れたくて、後ずさりしたヴィヴィは、

「いや……っ で、出てって……っ」

 弱々しい声で必死に抵抗する。

 今の匠海はおかしい。

 明らかにおかしい。

 常識を覆す言葉ばかりを並べ立て、混乱する自分を簡単に丸め込めると信じきっている。

 そんな兄と、まともな話が出来る筈も無いのに、

「お願いだよ、出ておいで」

「本当に、俺はお前しか愛していないよ」

 そう誠実な口調で、扉一枚隔てて懐柔しようとして来る。

「……いやぁ……、もう、やだぁ……っ」

 何で?

 何でこんな事になっちゃったの?

 分かんない。

 もう、ヴィヴィ、

 お兄ちゃんのこと、解んないよ……。
 
 もう兄の声を聞きたくなくて、震える両手で耳を塞ごうとした、その時。

「分かった……、今日は、行くよ。明日、落ち着いたらちゃんと話をしよう、いいね――?」

 匠海のその静かな声に、ヴィヴィはその場にへたり込み、

 混乱する頭を抱えながら、再び溢れ出す涙を流し続けた。



 

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