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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章          

「……――様? いらっしゃいますか、お嬢様?」

 遠くに聞こえる、執事の声。

 数時間、すすり泣きの声しか無かったバスルームに届く、

 やっと意味を持つ言葉。

 真っ赤に充血した瞳が、少しずつ細動し。

 その振れはやがて大きくなり、自分のいる場所を映し出す。

 高い位置にある窓から差し込む、夕刻を示す色の付いた日差し。

 常ならば冷たい白いタイルが、

 自分の居座っていたそこだけ、熱を持っていた。

 白一色で統一されたその空間に、

 その時になって急に息苦しさを覚え、

 閉鎖病棟にでも閉じ込められている錯覚に陥る。

「お嬢様、大丈夫ですか? 鍵をお開けしますよ?」 

 そう断りを入れて続いたのは、軽い金属音。

 主がバスルームで倒れている――そう考えが至ったのだろう。

 開けられた扉の先、そこに立つ朝比奈の表情は強張っていて。

 けれど、銀縁眼鏡の奥の瞳は視線の先、虚ろな表情で壁に寄り掛かっている意識のあるヴィヴィを認め、

 ほっとした表情と、当惑のそれを滲ませた。

 静かに けれど素早く傍に寄った朝比奈は、片膝を付いてヴィヴィの両肩を包み込む。

「ベッドで休みましょう、お嬢様。失礼します」

 そう断りを入れた執事は、ぐったりと脱力した主を抱き上げ、

 バスルームから寝室へとその軽い身体を運び込む。

 キングサイズの真ん中に降ろされたヴィヴィは、まるで人形の様にされるがままだった。

 羽毛布団を掛けられ、放心していると、

 いつの間に用意したのか、暖かな濡れタオルで ぐしゃぐしゃになった顔を拭われる。

 充血した瞳も、腫れ上がった目蓋も、赤くなった鼻の先も、

 全てが泣き腫らしたと物語っているのに、

 執事は何も問い掛けては来ない。

 有能で、彼女が幼児の頃から傍で付き従ってきた彼は知っているのだ。

 何故、主があんな場所に閉じ籠もって泣いていたのかを。

「世界選手権の疲れが出て、夜のレッスンはお休みになるとお伝えしておきます」

 そう言い置いた朝比奈は、ヴィヴィの気持ちを察して寝室を後にした。




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