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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章
夢を見た。
覚え切れないほどの夢を見た。
それは、物心付いた頃からの記憶を辿っていく旅の様だった。
目の前を軽快な足取りで歩く、細い子供の脚。
それが視界の中心にあって、その周りの景色だけが目まぐるしく変化していく。
その視界が途切れ、一瞬の暗闇の後、一面に広がる緑色の芝生。
どうやら転んだらしい自分に気付き、草いきれの中、立ち止まる足音。
そして軽々と抱き上げてくる、自分のよりも常に大きな両の掌。
『あ~~、転んじゃったね、痛い?』
その問いに、視界が左右に揺れる。
『泣かなかったね。偉いぞ、ヴィヴィ』
そう褒めながら自分を覗き込んでくる、幼いその人。
視界が切り替わり、
クローゼットの姿見に映る、BST初等部の制服。
丸襟の白シャツに、紺地に赤線のタータンチェックのワンピース。
その上にちょこんと載った小さな顔は、これ以上ないほど得意気だ。
少し高くなった視界が変化し、明るい場所へと出れば、
自分の前に跪いたその人が、誇らし気な中にも何故か少しの淋しさを滲ませた微笑みで見つめている。
『似合うよ。ヴィヴィは可愛いから、何でも着こなせちゃうね?』
少し傾いた視界。
『ホントだって。僕がヴィヴィに、嘘を吐いたことがある?』
左右に揺れる視界に、細く頼り無い両腕が映り込む。
『あはは、なんだ。小学生にもなるのに、甘ったれは変わらないんだな?』
そう苦笑しながらも、丸みの残る頬は幸せそうに緩んでいる。
『僕も。大好きだよ、ヴィヴィ』
コマ送りの映像の様に、刻々と切り替わる視界。
大きな文字の英語が並ぶ教科書。
それを開いている手はまだまだ小さくて。
音読しているのか、小さく縦に揺れる視界。
そして振り仰いだその先にいるのは、中等部の黒詰襟姿のその人。
『今日も面白いこと、あった? アレックス、風邪は治ってた?』
その日の学校生活を訊ねてくる柔らかな声に、視界が細まる。
『跳び箱にぶつけたの? あ、ほんとだ。青くなってる』
長い脚の間に、自分の華奢な両脚が伸びていて。
白い膝小僧の青たんを、慰めるように撫でてくれる掌。
両腕を伸ばした自分に迫ってくる 瞳を細めたそれは、本当に幸せそうなものだったのに。