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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章          

「ぁあっ あっ ……っ 奥、そんな、しちゃっ ぁんんっ」

 サラサラと音を立てて揺れる、美しい黒髪。

「ん? ここ突かれるの、好きだろ?」

 曲線を描くそこに押し付けられる腰には、鍛え上げられた筋肉の線が浮き出ていて。

「……っ 言っちゃ、ダメっ あっ んぁあああ……っ」

 艶めかしい蜜音が鼓膜を犯す。

 絡み合い激しくまぐわう男女からは、

 まるで立ち昇る熱気が目視出来そうなほど、濃密な空気が伝わってきて、

「ほら、出すよっ 俺の子供、孕んで……っ」

 男が牡の本能剥き出しに懇願すれば、

「ん、来て……、きてぇ……っ 匠海さん」

 焦茶色の双眸が、全てを受け止める覚悟を滲ませ、

 自分の最奥で、まさに爆ぜる寸前の男を懇願する。

「ああ、……っ 締ま、るっ っぁあっ 瞳子――っ」

 女の名を呼ぶ、大きめの唇。

 額同志をを押し付け合ったその下、恍惚を浮かべながら絡み合う男女の視線。

「んんっ ……~~っ ひぁっ あぁんん――っ!!」

 己の奥底を焼く熱さに、ぎゅうと目蓋を閉じる女から、外れる視線。

 ゆっくりとこちらを振り返る、その灰色の瞳の主は―― 



 ひゅっと息を飲み込む音。

 そして、

「いやぁあああああっっ」

 自分の絶叫を聞きながら、ヴィヴィは現実に引き戻された。






 白いベッドの上、ただただ慟哭していた。

 沢山の枕の中に突っ伏し、泣き叫び。

 細腕でその山を、無茶苦茶に叩き付ける。



『ヴィクトリア以外の女性に、勃たなくなった』

『いいや、俺はこれでいいんだよ。だって、俺の躰は、愛しているヴィクトリアには、ちゃんと反応してくれる』

『しないよ。それにしようとも思わない。ヴィクトリア以外の女性に、触れるのが気持ち悪くなった』



 小さな頭の中を、何度も何度も駆け巡る、兄の告白。

 あの時の自分は、 

 匠海の男としての機能を奪ってしまい、その責任を重々感じながらも、

 一方で、自分以外の女と性行為を持てない兄に、確かに喜びを感じていた。



 ああ、大丈夫だ。

 この人は自分を裏切らない。

 だって、

 裏切ろうとしても、裏切る術を持っていないんだもの――。


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