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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第32章
「トリプルサルコウ、ダブルループ、ダブルループ。三連続ジャンプを跳んだあとのランディングでこれだけスピードがあるのは、本当に彼女くらいですよ」
『そして独創性があり、柔軟性がいかんなく発揮されたスピン』
「足変えのコンビネーションスピン。ポジションが変わっても、回転速度が変わりません」
『ここからが最後の見せ場のステップ――徐々に変容を遂げる表情にもご注目ください……無邪気な微笑みが氷の様に冷酷なものに変わっていく瞬間。眉をひそめた嫌悪が、睫毛の先からこぼれる媚態にとって代わる瞬間――』
アナウンサーの解説が熱を帯びる。
「エッジが深い……ちゃんと音も拾っています」
『スピンを回り切り、残すは最後のジャンプ。決まるか――、あっ!?」
アナウンサーが咄嗟に大きな声を上げる。会場の液晶画面に大きく映し出されたヴィヴィの体は、助走の途中でかくんとつんのめり、スピードを落とした。
「これは、なにか……轍か何かに突っかかりましたね」
『最後のジャンプ、飛べないか!? ……いや、飛んだ! 飛びましたっ!!』
ヴィヴィは途切れてしまった助走に慌てる様子もなく、音楽のタイミングを合わせてほとんど助走のない状態から斜め上にスケート靴に包まれた足を振り上げた。
「助走なしからのトリプルルッツ! 凄いっ!」
『もう、篠宮選手には重力とか関係ないんでしょうか!? そして最後のフィニュッシュ! 凄いっ! やりましたね、浅田さんっ!』
「凄い! 会場中、スタオべですねっ!」
『This Is 篠宮ヴィクトリア――っ!! 世界の皆さん、これが全日本女王の篠宮選手です! これはまた、鮮烈なオリンピックデビューとなりました!』
「本当に! まだシニアの世界選手権にも出場したことのない選手とは思えない、滑りと度胸でした!」
『篠宮選手も日本チームの選手も左手の拳を天に突き上げて、喜びを分かち合います!』
「やっぱり、団体戦はいいですね~。私もソチオリンピックで出たかったです……」
『ソチではペアとアイスダンスの出場権が無かったですからね。あ……篠宮選手、礼をせずにチーム席に行ってしまう――!? ……ああ、よかった。戻ってきて照れ笑いしながら礼をします。あはは、会場から大きな笑いが漏れています』