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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章
24時間以上、ただ泣き叫んでいた自分のしつこさに辟易し。
やがて、ずるずると白濁の湯に沈んでいく身体。
細い顎。
丸みの減った頬。
細く高い鼻先。
震える睫毛。
ゆっくりと飲み込まれていく、自分の顔を形成する それらのパーツ。
この湯に浸かれば、
身体のコリどころか、心の澱も全て昇華される――。
そう無理やり自分に言い聞かせ、
金色の頭のてっぺんまでもが跡形もなく、
完全に白湯の中へと消え去った。
昨夜に続き、夜のレッスンを欠席するヴィヴィに、
流石のクリスも、苛立ちを募らせたらしく。
夕食を摂り屋敷を出る間際、妹の部屋を訪ねて来た。
「明日は、行くから……」
何言も口にせずとも、クリスがリビングに脚を踏み入れた気配だけで伝わり。
白革のソファーに座り込み、蚊の鳴くような声で続ける。
「もう、ヴィヴィには……、スケートしか、無いもの……」
生涯に一度、
自分の人生から締め出そうとしたもの。
けれど、その掛け替えの無い宝物を取り戻させてくれたのは紛れも無い、目の前のクリス。
心底お人好しで、
いつも妹の自分に利用されてばかりで、
見返りも求めず、己の愛情を与え続ける彼。
仕舞には、
その泉を自分のせいで枯渇させてしまうのでは――と、心配になる程に純粋で無垢な人。
自分なんかに関わらない方が遙かに幸せであろうその人を、ヴィヴィは自分からは突き放せない。
狡いから。
妹として、
双子の片割れとして、
存在する事だけは許して欲しい、と甘えてしまう。
ソファーにへたり込んだまま、俯くヴィヴィ。
その細い顎に指を掛け、自分へと上向かせるクリス。
「僕に、甘えればいい」
自分のそれと酷似した灰色の双眸が、力強く覗き込んでくる。
出来損ないの妹を底辺から引き摺り上げる、その慈悲の言葉。
けれど、
「もう……、自分の脚だけで、立ちたいの……」
クリスの支えを拒否する言葉に、目の前の瞳が傷付いた様に、微かに歪む。