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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章          

 誰かに寄り掛かって、

 その誰かも自分に寄りかかってくれて、

 互いに支え合っていると、

 ひとり、驕っていた。
 
 けれどそれが “まやかし” であったと思い知った今、

 こんなにも踏ん張りが効かず、

 呆気無く崩れ落ちてしまう自分を、身を以て知ってしまった。

(もう、誰にも期待、したくない……)

 心も躰も曝け出し、

 相手に全てを捧げてもなお、
 
 こんなにも呆気無く、

 簡単に打ち捨てられるのならば、
 
 ならばもう、

 自分は誰も要らない――。
 
 長い睫毛を湛えた目蓋が、己の殻だけに閉じ籠るように、緩慢に伏せられて行く。

 片割れである双子の兄さえも、心の中から締め出そうとする、

 深い傷を負った莫迦な――けれど愛おしくて堪らない妹。

 静かに外された、顎に添えられた指の先、

 クリスがどんなに寂しそうな貌をしていたのかなんて、

 ヴィヴィには想像も付かなかった。


 ある時、

 匠海が双子である弟妹を、羨ましがった事があった。

『だって、ヴィヴィにとってクリスは My better half(生涯の伴侶 = 自分の半身)だもん。ね、クリス?』

『うん……。もちろん、僕にとってのヴィヴィも、そうだよ……』

 “おままごと” のような、純粋で儚い2人の絆。

 それに縋ること自体は、あまりにも容易くて。

 だから尚更、

 もう、自分はクリスに甘えられないのだ――。







「結婚はするよ。産まれてくる子供には、ちゃんとした両親が必要だから」

 その日の夜。

 いつもより早い時間に帰宅した匠海は、まだ白革のソファーに座り込んでいたヴィヴィにそう切り出してきた。

「今週末、結納を交わす。その帰り、ここにも連れて来る」

 結婚を前提に見合いをし、知り合ったその女性は、今週末には兄の婚約者になるらしい。

 当然の事だ。

 その腹の中に宿る生命は、誕生の日へ向けて刻々と成長を続けている。

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