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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章          

 斜め下に視線を落としながら、頷きも身じろぎもしない妹の隣、

 スーツ姿の兄は、ソファーへと腰を降ろす。

 身を屈め、強引に視界へと入り込んでくる、端正な顔。

「でも、ヴィクトリアは俺の “恋人” であることには変わりない」

「………………」

 匠海のあまりの言い分に、空虚だったヴィヴィの瞳が、目の前の瞳へと視点を合わす。

「俺が心から愛しているのは、お前だけだから」

 真剣な表情で覗き込んで来るその瞳。

「寝ても覚めてもお前の事しか考えられない。欲しいのはヴィクトリアだけ。こんなにも恋い焦がれるのはお前だけ――」

 ぎしりと革の軋む音を立て、こちらへと寄せられる身体。

 そしてうっとりと微笑む顔は、女なら誰もが一瞬で魅了されそうな魅力的なそれで。

「だから、お前は俺の恋人だよ」

 その破綻を来たした論理展開に、ヴィヴィは視線も逸らさず見つめ続ける。

「もう、ヴィヴィを、抱かないの……?」

 そのまさかの問い掛けに、匠海は微かに瞳を丸くし、

 すぐにふっと吹き出して笑う。

「そんな訳無いだろう? 俺はお前の全てが欲しい。心は勿論、どこもかしこも気持ち良くて可愛いヴィクトリアの躰、愛さずにはいられないよ」

 兄のその言葉を受け、ヴィヴィは妙に冷めた口調で発した。

「それは、不貞行為です」

「うん?」

「配偶者以外の異性と肉体関係を持つ事は、婚姻を破綻させる不貞行為にあたります」

 まだ2年生とて、ヴィヴィは法学部を目指す大学生。

 配偶者が異性と食事やデートをしたり、キスや、メールのやりとりをしていたとしても、

 肉体関係(セックス)の事実がなければ、

 社会通念上は「浮気」と認識されるが、

 法律上の「不貞行為」にはあたらない事くらい知っている。
 
 万が一、兄が自分の躰を求めず、心だけを求めるならば、

 (ヴィヴィにそれに応える意思が有る無しを無視して)その言い分はある程度は理解出来た。

 けれど、

「相手にバレなければいい――そうだろう?」

 笑みを絶やさずそう唆す兄を見つめ、ヴィヴィは眩暈を覚えた。



 コノオトコハ イッタイ ナニヲ イッテイルノダロウ――?


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