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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章          

「幸か不幸か、俺達は血の繋がった兄妹だ。そんな俺達が恋人同士で、ましてや肉体関係を持っているだなんて、一体誰が想像する?」

 姿勢良く伸びていた細い背が、ぐったりと背凭れに倒れる。

「ヴィクトリア。俺はお前を愛していて、お前も俺を愛している。その気持ちはここ数日で培ったものじゃない。それこそ何年も掛けて育んで来たもの――」

「………………」

「だから、今すぐは無理でも、俺はいつまででも待つよ。ヴィクトリアの気持ちが整うまで」

「……無……理……」

 何年経っても、何十年経っても、

 もう、ヴィヴィの心は戻らない。

 愛している人に手酷い裏切りを受けたのに、

 どうしてその相手を再び受け入れられる等と、兄は思えるのだろう。

「いいや、ヴィクトリアは絶対、俺を受け入れる。俺を愛しているから。俺に愛されていることを知っているから」

 その兄の言葉に、ヴィヴィの脳裏によぎる言葉があった。


『ヴィクトリアが俺の事を嫌いになっても、憎んでも、記憶喪失になって忘れたとしても……。俺は一生、お前の事を愛しているよ』


 あの時は幸せしか感じなかった愛の言葉。

 それが今となっては、狂気しか感じさせない言葉へと成り果てて。

 両手で顔を覆ったヴィヴィは、何とか声を絞り出す。

「……出て、行って……」

「ヴィクトリア……」

 全身が瘧に罹ったように、震えていた。

「お願い……、もう、何も聞きたくない……」

「……おやすみ、ヴィクトリア……」

 今は何を言っても無駄と悟ったのか。

 ぎしりと音を立て席を立った匠海は、静かな足音とともに妹のリビングを後にした。

 互いの部屋を繋ぐ扉が閉じられた途端、

 細い掌の中、耐えられない嗚咽が漏れる。

「……――っ ひっ……っ ぅう……っっ」 

 もう、

 もう、お終いだ。

 今の兄の言葉を耳にして、ヴィヴィは本当の終わりを悟った。

 ヴィヴィは愛している匠海と一緒にいられるだけで、本当に毎日が幸せだった。

 見つめ合うだけで心が浮き立ち、

 他愛もない会話を重ねるだけで愛おしさが増し、

 そして躰を繋げるたびに、全身全霊でこの人を愛し支え続けたいという気持ちを強くした。

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