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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章          



 でも兄は違った。



 将来も無いこの関係に嫌気がさし、他の女との未来を選んだ。

 けれどその躰は、まだ自分との性行為を忘れられなくて。

 血の繋がった実の妹との近親相姦の味、を忘れられなくて。

 だからこんな戯言で単純なヴィヴィを丸め込み、その肉体関係だけは続けようとする。

「………………っ」

 自分はただ、

 ただ、匠海の幸せを望んでいて、

 その傍に一緒に居て、幸せを共有したかっただけなのに。


『俺は、いつまでも待つよ……。ヴィクトリアの気持ちが整うまで……。けれど――』

『頼むから、離れないで欲しい……。無視してもいいから、ここに居て欲しい……』


 皮肉にも、ヴィヴィの脳裏に響くのは、

 2年と4ヶ月前の自分に囁かれた、兄のそんな言葉だった。






 翌日から、ヴィヴィはリンクへと通い始めた。

 丸1日レッスンをサボったツケをその身体で払いながら、それでも何とか、以前の自分へと戻れるように必死にコーチに食らい付いていく。

 その日から、無理やり食事も採り始めた。

 食欲なんてこれっぽっちもないけれど、食べなければスケートが滑れない。

 滑る体力を維持する為だけに、睡眠と食事を採る。

 大学の春休み期間のヴィヴィは、本当にリンクと屋敷の往復しかしていなかった。

 そして毎夜、匠海はヴィヴィに愛の言葉を囁き続けた。

「愛している」

「愛している」

「愛している」

 1ヶ月前まで、幸福しかもたらさなかったその言葉は、

 今やヴィヴィにとっては、恐怖を通り越した呪詛の言葉と成り果てていた。





 そして、まるで義務の様に、毎夜必ず見さされる悪夢。
 
 跳ね起きては涙に暮れ、

 慢性的な睡眠不足と、

 少しも安寧を得られない心。

 狂気と落胆が交錯する。

 幾度懇願し、幾度失望したことだろう。

 明日の朝起きれば、今までの出来事が全て、夢だったと。

 たちの悪い悪夢だったと。

 隣に匠海が安らかな寝顔で眠っていて、その胸に安堵と共に縋り付いて、また微睡に落ちる。

 ――そんな現実。

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