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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章
「匠海様の婚約者がいらしています。お嬢様にご紹介されたいとのことです」
3月25日(土)。
書斎で手紙をしたためていたヴィヴィに、朝比奈が要件を告げてくる。
白い便箋の上を辿るペン先が止まり、
一瞬の躊躇ののち、その万年筆はデスクの天板へと置かれた。
「……そう……」
脇に置かれた十数枚の便箋の上、書き終えたそれを重ね、トントンと角が揃えられ、
「これ、内容に不備がないか確認して、出しておいてくれる?」
漆黒のお仕着せを纏った執事に、ヴィヴィは便箋と 既に宛名がしたためられた封筒とを差し出す。
「畏まりました」
革張りの椅子を引いて立ち上がり、自分の纏っているワンピースを見下ろす。
「着替えたほうが、いいのかな……?」
ペールグリーンのノーカラー・シャツワンピース。
てろんと柔らかな素材のそれを纏った主を、執事は頭の先から爪先までを確認し、頷く。
「それで宜しいかと。春先にぴったりのお色味で、お嬢様にとてもよくお似合いです」
その見立てに鷹揚に頷いたヴィヴィは、書斎から出てリビングを通り、階下へと歩を進める。
大理石の階段を下りるのは、自分とその執事だけ。
両親とクリス、そして当事者の匠海は、朝から外出をしていた。
篠宮家の長男の結納――そのハレの日に相応しい出で立ちで。
『ヴィヴィは、リンクへ行きます』
母に結納に出席するかを確認された時、ヴィヴィはそう返事をしていた。
『分かったわ。15時頃、瞳子さんを我が家にお連れするわ。それには同席するわね?』
『はい……』
『ヴィヴィ……。あんたは本当に生まれながらの “お兄ちゃん子” 。匠海が結婚すること、寂しかもしれないけれど、祝ってあげられるわね?』
『はい。勿論です……』
『ヴィヴィ……?』
『何でしょう?』
『ふふ、ここ、家よ? 敬語、止めてくれない?』
『……ああ、ごめん。なんか最近、ごっちゃになっちゃって……』
そう零しながら前髪越しに額に手を添えた娘の疲れた様子を、母は当惑して見つめていたっけ。