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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章          
 
 コツン。

 コツン。

 コツン。

 5㎝高の太いヒールが奏でる、どこか軽い音。

 右手で手すりを撫でながら、単調な足取りは淀みなく階下へと向かう。

 自分に従う執事のそれも、同様で。

 永遠にこの階段が続くような錯覚に陥ったのは、

 それを心から望んでいるからか。

 それとも、本当にただの錯覚からなのか。

「………………」



 喚いてやろうか。
 


 一瞬、そんな考えが脳裏をよぎる。



 喚いてやろうか。
 


 今日、兄の婚約者になれた、幸せの絶頂のその女に――。

 「私はそこにいる兄と、近親相姦をしていました」と。

 ピルを飲んで避妊をしていたとはいえ、

 ずっと生でセックスをして中に出していたと。

 そして、互いに男と女として愛し合い、

 将来を誓い合った仲だったと。

 そんな男の子供を産んで、

 そんな男と結婚できるのか? と。



 喚いてやろうか。



 何もかも暴露して、

 周りをも全て巻き込んで、不幸にしてやろうか。

 父も、

 母も、

 匠海も、

 クリスも、

 そして、

 自分から全てを奪った、その女も、

 近親相姦という罪を重ね続けた、

 穢れた娘と息子を前に、

 床にひれ伏し、泣き叫ぶがいい。

 だって狡いではないか。

 自分ひとりだけが、こんなにも苦しんで、

 自分ひとりだけが、こんなにも不幸だなんて。
 


 ねえ、教えて、お兄ちゃん。

 どうして、ヴィヴィだけが、

 どうして、ヴィヴィひとりだけが、

 こんなに苦しまなけらばならないの――?



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