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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章          

 コンコン。

 軽いノックの後、中からの返事を待たず、目の前の漆黒の執事が扉を開ける。

「失礼致します。ヴィクトリア様がお着きになられました」

 己の主の所在を宣言する声。

「ああ、ヴィヴィ! おいで、待っていたよ」

 溺愛する愛娘を呼び寄せる、父の嬉しそうな声が、

「瞳子さん、初めて会うわね? うちの末っ子のヴィヴィよ」

 まだ見ぬ婚約者に語りかける、母の弾んだ声が、

 重なって。
 
 反響して。

 薄い胸に、

 刃の様に突き刺さって。
 
 そこから滴り落ちる、

 どす黒い血の音を、聞いた気がした。

「お嬢様、どうぞ」

 扉の脇に直立する朝比奈に促され、ライブラリーに一歩踏み込む。

 立ち止まったヴィヴィは、そこにいる全員の顔を見渡し、

 すっと息を吸い込むと、おもむろに薄い唇を開いた。






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