この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章
コンコン。
軽いノックの後、中からの返事を待たず、目の前の漆黒の執事が扉を開ける。
「失礼致します。ヴィクトリア様がお着きになられました」
己の主の所在を宣言する声。
「ああ、ヴィヴィ! おいで、待っていたよ」
溺愛する愛娘を呼び寄せる、父の嬉しそうな声が、
「瞳子さん、初めて会うわね? うちの末っ子のヴィヴィよ」
まだ見ぬ婚約者に語りかける、母の弾んだ声が、
重なって。
反響して。
薄い胸に、
刃の様に突き刺さって。
そこから滴り落ちる、
どす黒い血の音を、聞いた気がした。
「お嬢様、どうぞ」
扉の脇に直立する朝比奈に促され、ライブラリーに一歩踏み込む。
立ち止まったヴィヴィは、そこにいる全員の顔を見渡し、
すっと息を吸い込むと、おもむろに薄い唇を開いた。