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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章          

 ノーメイクでも薄紅色に潤う、薄い唇の隙間。

 息を吸い込んだのと同じスピードで、言霊を吐こうとした。

 その時のヴィヴィは、本気でそうするつもりだった。

 なのに――、

「……――」

 それらは緩慢に開かれたまま、薄い息を吐き出す用しかなさなかった。

 戸口に固まるヴィヴィに向けられる、幾対もの暖かな瞳。

 父が、

 母が、

 1人娘が “良い子” で客人にご挨拶出来るかと、見守り。

 クリスが、

 自分と同じ瞳で、「僕の隣においで、守ってあげるから」と促し。

 その家族の顔を目にした途端、両肩にずしりとした重さを覚え。

 開いていた唇が、何も吐き出す事無く、ゆっくりと閉じられていく。

「ヴィヴィ? そんな遠くにいないで、近くにいらっしゃいな」

 そんな母の手招きからも、

「ふ。ヴィヴィはまだ “人見知り” なのかな? ほら、おいで」

 そんな父のからかいからも、

 優しい空気が目視出来そうなほど、自分を愛おしんでいてくれるのが伝わってくるのに。



 言える訳がない。

 巻き込める訳がない。

 誰をも幸せに導かない事実を、洗いざらい喚くだなんて――。



「………………」

 薄い唇を、誰にも解からぬよう浅く噛み締め、

 ヴィヴィは絨毯敷きのそこへ歩を踏み出す。

 何でこんなに広い必要があるのか分からぬほど、だだっ広いライブラリー。

 そこを最短距離で横切ったヴィヴィの視界に、

 ひとり、見知らぬ女性が映り込む。

 年の頃は匠海と同じくらいだろうか。

 センターパートで分けた黒髪の下、濃さは感じさせない目鼻立ち。

 眉も瞳も鼻も頬骨も、何もかもが柔らかく淑やかな曲線を描き、

 唯一の特徴は、少しだけ唇が大きめというところか。

 自分を見つめるヴィヴィに、にっこりと微笑むその人。

 笑うと白い歯が印象的に零れ、大きめの唇がチャームポイントであることが分かる。

「………………」

(この人が……瞳子――?)

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