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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章          

 意外だった。

 否、自分の中の “兄の婚約者” のイメージが、酷過ぎたのだ。

 華美な化粧に香水、目付きや言葉尻に滲む色気、女の武器である躰。

 それらを最大限駆使して、兄を誑し込んだ女――。

 勝手に心の中で肥大していた醜いイメージ。

 けれど、

 目の前のその人は、そんな事は無くて。

 クリスが腰掛けた3人掛けソファーの後ろ。

 そこで呆けた様に立ち尽くすヴィヴィに、その人は立ち上がる。

 着慣れているのか、紅藤の着物に浮かび上がるのは、まだ蕾の淡い桜。

 春の柄――しかも今の時期を見極め取り入れられたそれに、大人の女の粋を感じる。

「ヴィクトリアさん、ね? 初めまして、安堂 瞳子です」

 あんどう とうこ。

 そう名乗った声音も、高過ぎず落ち着いていて芯があり、

「こら、ヴィヴィっ ちゃんとご挨拶なさい!」

 何度促しても自分から挨拶しない出来の悪い娘に、ジュリアンが焦れて叱ってくる。

「……はじめ、まして……妹の、ヴィクトリア、です……」

 カッスカスで芯の無い声で挨拶したヴィヴィに、その人は先を促す様に瞳を細めながら頷き、

「……お会い、出来て……光栄、です……」

 心にも無い事を、何故か続けさせられていた。

 目の前の瞳子が心底嬉しそうに笑う。

 その様子があまりにも自然で、ヴィヴィは何だか毒気を抜かれてしまい。

 また呆けた様にその場に立ち竦む。

「ヴィヴィ、ここ、おいで……?」

 振り返ったクリスに促され、

  父 母
┌─────┐瞳子
└─────┘匠海 
 ヴィヴィ クリス

 の順で着いた席順。

 五十嵐がヴィヴィの為に茶を供している最中、家族は会話を再開する。

「てっきり、瞳子さんのご実家の、田園調布3丁目周辺にするのかと思っていたわ?」

 ジュリアンのその問いに、

「まあ、両家の真ん中くらいが一番理想だろう? それに白金台にいい物件があったからね」

 匠海が答える。

 白金台――それはここ松濤から、山手線でたったの2駅程度の距離しか離れていない高級住宅地。

 逆に、田園調布3丁目からは、もっと離れている筈だが。

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