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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章
「入居はいつからだい?」
「4月1日。ちょうど異動の時期だし、キリもいいしね」
父の問いに、また匠海が答える。
どうやら兄と瞳子は、白金台に新居を構えるらしく。
(……ここ、出るんだ……)
全く想像していなかった。
篠宮家の跡取りである匠海が、この屋敷を出て行くなんて。
いや、だからと言って、
瞳子とここで同居するという想像も、全くしていなかったが。
目の前に置かれた茶器を取り上げ、柄を摘まむ。
美しい琥珀色の液体を、その茶葉が何かを推測するかのように、ただじっと見つめていた。
「それにしても、2人とも強運の持ち主よね? 家も結婚式場もすぐに決まっちゃうなんて」
「はい、リッツが取れたのは正直びっくりしました。まあ、日曜の夜ですからご迷惑をお掛けしますけれど」
母にそう淀みなく返す瞳子の声には、喜びが滲み出いていた。
「あ、そうそう、ヴィヴィ。結婚式は4月9日(日)だよ」
父の声にすっと顔を上げると、
「ヴィヴィ……、国別対抗戦の翌日、だね……」
続いたクリスの声に、緩慢に視線をそちらへと移し。
静かな湖面を思わせる瞳を見つめ、また茶器へと視線を下げる。
「ごめんなさいね、バタバタして。その日しか式場が空いていなかったの」
その瞳子の言葉はヴィヴィに対してのものだったが、ジュリアンが「いいえ」と首を振る気配がした。
「早いに越したことはないわ。瞳子さん、お腹が目立たない方だけど。やっぱり女性だもの、ウエディングドレスは綺麗に着たいものね?」
手の中の茶器が、カタカタと微かな音を立てていた。
妊娠。
結納。
新居への移動。
もちろんその先に待ち受けているのは、
結婚式。
そして、出産――。
考えれば解る事。
なのに、
まさかこんなにも早く、全てを受け入れなければならないとは。
「ジュリアンは、5ヶ月目で もう大きかったね?」
懐かしさを滲ませる父に、
「そりゃあそうよ、だって双子だったんだもの!」
何故か得意げに、平らな腹に手をやる母。