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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章          

(そういえば……、どうして、応接間じゃないんだろう……?)

 少しだけ落ち着いたヴィヴィは、周りが見えるようになってきた。

 篠宮家には別に、だだっ広い応接間がある。

 たいていはそこで客人をもてなし、このライブラリーには家族や気の置けない友人達しか足を踏み入れないが。

(そうか……。もう “家族” になるんだ……)

 自分は今日が初対面だが、両親とクリスは既に瞳子と顔合わせをしていた。

 今から3週間も前に。

 そしてすぐに篠宮家に溶け込んだ彼女は、違和感無くこの “家族のスペース” へと通されたのだ。

「………………」

(違和感無く……か……)

 このめでたい席において、

 和やかな家族の団欒において、

 存在している、唯一の違和感。
 
 それは、他でもない――自分。

 そうか。

 そういうことか。

 目の前のローテーブルに茶器を戻し、柔らかなワンピの上、両手を揃える。

 自分がいなければ、全てが上手くいく。

 実の兄の結婚を心から喜べない妹なんて、

 “小姑” 以外の何物でもない。
 
 両親だって、

 大事な跡取りの長男の結婚に “五輪での醜聞” という唯一のケチを付けた娘を、どこか持て余している。

 クリスだって、

 捨てられたというのに、いつまでもグジグジ煮え切らない妹に、辟易している筈。
 
 それに、匠海――。

 兄にとっては、手が届く場所に “執着の対象” がいなければきっと、

 自分の新妻と子供を裏切るような真似に、手を染めることもない筈。
 
 そして、

「瞳子さん」

 長い沈黙ののち、いきなり口を開いたヴィヴィ。

「はい、なんでしょう?」

 少し驚いた様子の瞳子は、それでもヴィヴィと会話が出来る事に、何故か嬉しそうで、

「ひとつ、お聞きしても、いいですか?」

 その断りに「ええ、なにかしら?」と100点の微笑みをくれる人。

「兄の事、愛していますか?」

 どストレートに、しかも真顔で尋ねるヴィヴィに、瞳子は「え?」と眉を持ち上げ、

「まあ、ヴィヴィったら……。ごめんなさいねえ、瞳子さん」

 奔放な娘の詫びを入れる母に、

「うちのBambi(小鹿ちゃん)は “お兄ちゃん子” なんだよ。許してあげてくれるかな?」

 やはり溺愛街道まっしぐらの父も、娘に代わって謝罪する。

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