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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章          

 柿田と別れたヴィヴィは、リンクアリーナへと足を踏み入れる。

 まだ一般営業しているメインリンクを通り過ぎ、サブリンクへと進めば、下城・成田組が既に居た。

 公私共にパートナーである2人を、どうしても羨望の眼差しで見てしまい、

 観客席に腰を下ろしたヴィヴィは、俯いてスケート靴に履き替える。

 昨日、兄の婚約者となった安堂 瞳子と会った。

 匠海を「心から愛している」と言うその人は、我が子の誕生を心待ちにし、篠宮家の家族の一員になれることに喜びを感じているようだった。

 そして、匠海も。

 瞳子とその子供と “家族” になろうとしている兄を見て、確信した。



 あの日――兄妹3人で『ジゼル』談義に花を咲かせていた時。

 ジゼルを弄んだアルブレヒトを責めるクリスに、ヴィヴィは激しく同意し、

 「最初から妾として扱っていれば、死ぬ事は無かったんじゃ?」と打開案を呈した。
 
 それに対し、

『そうすると、ジゼルは “アルブレヒトが自分とは身分の違い過ぎる貴族” と判っている為に、遠慮してしまうだろうね。そうなると、2人の間には最初から壁が出来てしまう……。アルブレヒトはそれが嫌だったのじゃないかな?』

 そうアルブレヒトを擁護した匠海に、双子は不満たらたらだったが、

『でも俺は、アルブレヒトにっとてのジゼルは、唯一の愛する対象――女性だったと思うけれどな?』

 最終的にそう言い切った6歳年上の兄に、双子は「「大人は……、ずるい……っ」」と突っ込んだ。



 匠海はただただ “妹” が欲しかったのだ。

 彼の好み通りに啼き、簡単に心と躰を差し出す、従順なヴィヴィが。

 兄の “人形” となる決意をした自分を、

 わざわざ時間と手間を惜しまず “恋人” として欲したのも。

 “人形” では物足りなかったから――。

 今ではスケートのトップ選手となった、まだ年若い妹が、

 自分に夢中になり、己の全てを盲目的に捧げてくる。

 そこにあるのは主従の関係性ではなく、

 恋愛感情も、家族としての慈愛も、更には深い母性までもを伴い、全身全霊で兄を愛する妹。

 匠海もまた、そんな献身的なヴィヴィに夢中になり、歪んだ関係性に陶酔していたのだ。


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