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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章          

 軽い体重を受け、きしりと鳴くその聞きなれた音。

 その瞬間、堪え切れない虚しさが全身を襲い、ヴィヴィは嗚咽の漏れそうな唇を両手で覆う。

「……――っ」

 一体この上で、自分は何度兄と結ばれたのだろう。

 何度「お兄ちゃん」とこの人を呼び、懇願しただろう。

 与え与えられ、奪い奪われて。

 そこには紛れもない男女の愛が存在していると、そう信じて疑わなかった。

 幸福と、絶頂と、互いを思いやり、慈しむ心。

 それだけしか存在しない場だと思っていた。

 なのに――

 そんな考えても何の身にもならない事を思い、オフホワイトのパーカーの胸が鈍く軋む。

(もう、終わったこと……。ううん、お兄ちゃんの心の中では、始まってさえいなかったこと……)

 何とかそう言い聞かせ、やっと匠海本人に視線を移す。

 安らかな寝息を立てた兄は、腰まで黒い上掛けを被り、上半身はあの日を思わせるようなVネックの半袖シャツを纏っていた。

 いつも凛々しく引き締まった頬が、寝ている時は凄く幼く映って。

 自分はそんな可愛らしい兄を、心底愛していた。

 我が儘でやきもち焼きでくっつき虫で、

 妹にしか甘えれなくて。

 掌の上で簡単に転がされる単純なヴィヴィを、いつも面白がってからかっていた。

(でも、もう、何処にもいない……。

 ヴィヴィの愛したお兄ちゃんは、もうこの世にはいない……)
 
 そう思い込めば、目の前に横たわる兄の姿が、ただの空虚な容れ物に見えてきて。

 ヴィヴィは浅くなっていた呼吸を、あえて深いものに意識して切り替える。

 そして、何を思ったのか。

 熟睡している兄の腰を跨ぐと、その上に腰を下ろした。

「……ん……? ぅん……」

 幾らヴィヴィの体重が軽いとはいえ、成人間近のその身体の重みに、匠海が身を捩り。

 うっすらと開かれる目蓋を見下ろしながら、ヴィヴィの両掌はある一点を目指して降ろされていく。

「……――っ!?」

 己の咽喉に感じた違和感に、そこを圧迫してくるものを匠海が掴み上げ。

 そしてはっきりと開かれた視界の先、

 自分に馬乗りになり、首を圧迫してくる少女の姿を捉える。

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