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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第32章           

 先頭の羽生(はぶ)がリンクへと入り、皆それに続く。選手全員の名前がアナウンスされる中、リンク中央で10人は手を繋ぎ合うと、観客に向かって男子は深々と礼をし、女子は膝を折って礼をした。惜しみない拍手を受けた選手たちは四方に手を振りながら団体戦用の長い表彰台に近づく。そして1位アメリカと2位ロシアの選手達とハグしあうと、表彰台に上った。

「緊張するね?」

 ヴィヴィは隣の宮平にこそりと囁くと、宮平は笑顔で頷く。チマチョゴリ(韓国の礼装)を纏った女性を従えて現れたISUや韓国オリンピック連盟のお偉いさんにそれぞれ祝福の言葉を掛けてもらいながら、握手をする。そしてとうとう――、

「Congratulations!! とても素敵な演技でしたよ?」

 そう言葉を掛けてくれたISUの幹部から、ヴィヴィは銅メダルを首に掛けて貰った。礼を言ったヴィヴィは10センチ程のメダルを掴むとしげしげと目の前で観察する。半円で山と雪片を表した平昌オリンピックのエンブレムを模したそれは、クリスタル部分もあるとても素敵なデザインだった。

「けっこう、ずっしり!」と、くりくりとした目をさらに丸くするマリア渋谷。

「これで俺らも、オリンピックメダリスト――っ!!」と、両手を突き上げて喜ぶマーヴィン藤堂。

 皆口々に喜びの言葉を口にする中、ヴィヴィは表彰台の隣――もう2段高いところに立つアメリカの選手達が金メダルを掛けて貰っているのを見つめていた。

(4年後は、団体戦で『ここ』に立ちたいな……)

 初のオリンピック団体戦の参戦で銅メダルは、充分に褒められるべき快挙だろう。けれどヴィヴィの心の中は「きっと日本チームはこんなものじゃない」という気持ちのほうが強かった。あまりにもじっと見つめていたからか、隣に立っていたアメリカのアイスダンスの選手――メリルがヴィヴィに気づいて微笑み掛けてきた。

 メリル・デビアス&チャーリー・ブラックと言えば、今のアイスダンスで一二を争うスター選手だ。黒い瞳が印象的な彼女が首から掛けたメダルを手に取り、ヴィヴィのほうへ見せてくれる。スポットライトを浴びてキラキラと輝くゴールドメダルは、やはり貫禄が違って見えた。

「So beautiful……!」

 灰色の瞳を輝かせてそう言って見上げたヴィヴィに、メリルとチャーリーは軽くハグをしてくれた。

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