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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第32章
「四年後はきっと、もっと綺麗な色のメダルを取ります!」
英語でそうはきはきと言い切ったヴィヴィに、「負けないわよ?」と余裕の笑みを返してきたメリルなのだった。
その後、記者達に眩しすぎるフラッシュを焚かれながら写真撮影が終わると、ヴィヴィ達はスケ連の人が用意してくれていた大きな日の丸の旗を各々纏ったりはためかせたりしながら、アメリカとロシアの後に続いてリンクの中を一周していた。
「お兄ちゃんとダッド……どこにいるんだろ?」
隣にいたヒーローのように首で国旗を結んだクリスにそう問いかけたヴィヴィに、
「今日の便で帰るって……さっきメールあったよ」
とクリスが教えてくれる。
(そうなんだ……もう、帰っちゃうんだ……)
ヴィヴィも明日の早朝の便で日本に帰国するので明日にはたぶん匠海に会えるのだが、なぜか急に心細くなって気持ちが焦る。韓国入りしてからもう4日も匠海の姿を見ていないヴィヴィは、今オリンピックのメダルを取ったばかりという高揚する気分も手伝い、どうしても今ここで一目でも匠海に会いたかった。
きょろきょろと首を巡らし観客席の中に匠海がいないかどうか探すが、やはり12,000人も収容するリンクでは人ひとりを探すのは容易ではない。
(お兄ちゃん……どこにいるの? もう、会場出ちゃった……?)
「会いたいよ……」
ヴィヴィの表情が曇り、中東風のメイクが施された美しい顔がまるで泣きべそをかく幼児のそれになる。手渡された国旗を纏うでもなく、表彰式で贈られたブーケと一緒に握りしめながら、ヴィヴィは必死で請い求める匠海の姿を探していた。そんな時――、
どすん。
何かにぶつかったヴィヴィは体勢を崩したと思ったら、次の瞬間、お尻に痛みを感じた。軽く脳震盪を起こしたように目の前に小さな星が飛んでいる。
「何やって……大丈夫?」
そう声を掛けられて顔を上げると、目の前に羽生(はぶ)が腰を屈めて手を差し出して立っていた。
「リーダー……いたた……よそ見してたの」