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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章          

 2階の寝室から、羽毛布団と枕を持って降りようとする朝比奈を、ヴィヴィも手伝い。

「ふふ、なんかキャンプみたい♡」 

 ソファーで寝るのが何故キャンプなのか分からないが、無邪気にはしゃぐ主に執事は瞳を細めた。

「では、お風呂を頂戴いたします」

「ゆっくりしてきてね~」

 能天気な声で送り出したのに。

 執事は「カラスの行水かっ!?」と、突っ込みたくなる速さで入浴を済ませてしまった。

「ゆっくりすればいいのに」

 少し呆れた様子のヴィヴィに、朝比奈は苦笑する。

「いえ、いつも早いんですよ」

 「失礼します」と断って、目の前のソファーに腰を降ろした朝比奈。

「ふふっ なんか不思議~」

「はい?」

「朝比奈のスーツ以外の格好って、ほとんど見たことないから」

 目の前の彼は今、自分と同じ白いバスローブを身に着けていて。

 いつもきっちりセットした黒髪も、今はナチュラルに流されていて。

「まさか、スーツで就寝しているとか、思われていましたか?」

「思ってた」

 馬鹿正直に答えるヴィヴィに、朝比奈が声を上げて笑う。

 何だか不思議な感じがした。

 双子が3歳の頃から、ずっと付きっ切りで面倒を見てくれたその人が、全く知らない別人の様に思えて。

「何歳だっけ?」

「37歳ですね」

 湯上りで火照った身体に眼鏡が曇るのか。

 銀縁眼鏡を外して拭う執事に、更に知らない男の貌を見つける。

「ふうん。ヴィヴィと18歳差か……。娘でもおかしくないかも?」

「あ~、本当に、そうですねえ」

 小首を傾げるヴィヴィに、朝比奈がしみじみといった風に頷く。

「彼女いるの?」

「……喧嘩、売ってらっしゃいますか?」

 眼鏡を掛け直した執事が、胡乱な瞳で目の前の主を見つめてくる。

「まさか~」

「ふ……、おりませんよ」

 少し肩を竦めて見せた彼は、そこから立ち上がろうとしたが、

「ねえ」

「はい、なんでしょう。お嬢様」

 呼び止めたヴィヴィに、朝比奈が微笑みと共に答える。

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