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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章          

 ゆっくりと視線を落としたヴィヴィは、

「……ごめん。冗談が過ぎたね……」

 素直に非を認め、みっともなく晒していた肌をバスローブを抱き寄せて隠す。

「ごめん。忘れて。……いや、忘れられないか……」

「………………」

 執事――という、彼にとっての聖職を汚され、怒り心頭なのだろう。

 何も返して来ない朝比奈に、ヴィヴィは自分で決着をつける。

「もう、こんな淫乱の主になんか仕えられないよね。分かった……」

「お嬢様……?」

「両親にはヴィヴィから言っておくから。ヴィヴィは五十嵐にお世話して貰うね……」

 いやもう、本当は誰にも構われず、

 誰とも接点の無い場所に行きたくて――。

「何故そんな事を仰るのです――!?」

 五十嵐の名前を出した途端、そう強く反発してくる朝比奈に、

「え……? だって、嫌でしょう? 執事を誘惑する主……なんて」

 ヴィヴィは少し驚き、真っ直ぐに執事を見返す。

「五十嵐さんにも、同じ事を頼まれるのですか?」

「え……? う~ん、そういう気分になれば、頼んでみるかも?」

 本当はそんなつもりなど微塵も無いのに、何故か口から零れたのは朝比奈を煽る返事。

「いけません。そんな自分の躰を “安売り” するようなことをされては!」

 目の前に立つ、自分を育てて来た朝比奈のその正論に、ヴィヴィの眉がぴくりと動く。

「 “安売り” ……? でもヴィヴィはセックスしたいんだから、互いの意思が合えば、別に関係無くない?」

 能書きを垂れる若造に、18も年の離れた執事はそれでも根気強く主を諭す。

「性行為は、愛している相手とすべきものです。心の無い性行為は、私にとっては全て “安売り” です」

 “安売り” と連呼され、その時の自分は、相当イラっとしていたのだと思う。

「ふうん……。じゃあ、ヴィヴィが今までお兄ちゃんとしてきたセックスは、一体なんだったんだろうね?」

「………………」

 主のその常軌を逸した問いに、執事は黙り込み。

 その事に少しの愉悦と、言い様の無い虚無感が込み上げる。

「15歳から19歳まで。ヴィヴィはただ “安売り” してただけ、だったのかな?」

 ただの執事である朝比奈に、そんな酷な質問をぶつける自分に、一番苛立ちが募る。

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