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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章
「まだお若い。これから素敵な男性に会うかもしれませんし、結婚だって、出産だってされるかもしれません。……もちろん、このまま独り身を貫かれるという選択肢もあるでしょう。お嬢様が選択されることならば、私はそれを尊重します」
抱擁を緩めた執事は、主の前に膝立ちになると、その両肩を包みながら覗き込む。
「私はヴィクトリア様とクリス様に、どういう形であれ幸せになって欲しいのです」
「朝比奈……」
銀縁眼鏡の奥の瞳は暖かな光を湛えていて、優しく細められる瞳に嘘は無かった。
じんと鈍く痺れた胸。
その苦しさに小さな顔が歪む。
「いくらでも抱き締めますし、いくらでも頭を撫でて差し上げます。躰を繋げなくても、慰める、痛みを共有する方法は沢山ありますよ」
双子を16年間もの間、ここまで育て、
執事という立場から少々逸脱しながら愛情を注いで来てくれた男の、心からの親愛の情。
目の前に広げて見せてくれたそれに、ヴィヴィはここまで抑え込んで来た感情が爆発し、
「……~~っ ……ふぇええ~~んっ」
気付けば目の前の執事の胸に飛び込み、必死にバスローブにしがみ付いていた。
「辛かったですね。苦しかったですね……」
帰国してからの1ヶ月。
苦しくても1人で耐え忍んできた主を、執事は常に傍らで見守っていたのだ。
力強い腕で抱き寄せられる圧迫感に、何物にも代えがたい安堵がぶわりと胸の奥から溢れ出す。
「あさひなぁ~~っ」
涙が溢れて止まらなった。
まるで朝比奈に縋り付いていないと死んでしまうかの様な錯覚にまで陥り、その背に回した両腕を強く強く引き寄せる。
「誰にも甘えも弱音も吐けない状況でしたのに、よく頑張りました。もう、充分ですよ」
労わりながら頭を撫でてくれるその掌に、更に涙腺が刺激されて。
ガキ丸出しで声を上げて泣いていたヴィヴィ。
しかし、それが10分も続けば、次第に落ち着いてきて。
安堵感よりも羞恥心の方が勝り始めた。
カッコ悪く、ずるずる鼻を鳴らせば、
「はい、チーンしましょうね」
と、本当に「何歳児だと思ってる?」と突っ込みたくなる言葉でティッシュを渡された。