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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章          

「……っ ご、ごめん、なさい……っ」

 自分の涙でぐっしょり濡れたバスローブに、言われて気付いた朝比奈は声を上げて笑う。

「大丈夫です。まだバスローブ、いっぱいありましたから」

 泣き腫らした瞳で見上げれば、心底ほっとした顔で覗き込まれていた。

「……ごめん、なさい……。ヴィヴィ、酷い八つ当たり、ばっかり……っ」

 自分の言動を冷静になって思い起こせば、今更ながらに血の気が引いた。

(な、なんでヴィヴィ、あんな事、洗いざらい……っ)

「いいえ。本気でぶつかって来て下さって、嬉しかったですよ。ああ、何だか、思春期で距離を置かれていた娘に、「お父さんなんか大っ嫌い! でも、好き……」と言われている気分でしたね」

 腕の中で顔色を無くしていく主を、そう茶化した執事。

 19歳の少女の心の中ではもう抱え切れない位、肥大してしまっていた負の感情――の発露。

 それを全て引き受けてくれたのだ、この良く出来た執事は。

(朝比奈……)

 やっと落ち着いた様子のヴィヴィに、

「はい、これ、着ましょうね」

 肩から引っ掛けた状態だったバスローブ。

 その袖に腕を通す様に促され。

「……うん……ね……?」

「はい?」

「朝比奈、……勃ってるけど?」

 言わなくていいのに、ヴィヴィは馬鹿正直にそう言い募る。

 だって、ぴったりと寄せ合った腹に感じるのだ。

 硬く反り上がった、それ――が。

 一瞬、「マズイ……」と言わんばかりの、知らない男の貌を覗かせた朝比奈。

 しかし、数秒後、

「………………、私も生物学上は男ですからね。そりゃあ魅力的な女性が生まれたままの姿で「抱いてくれ」などと懇願されたら、これくらいの反応はしますよ」

 そう言い切った執事の顔は、なんだかちょっと不貞腐れている様なそれで。

「あははっ!」

 堪え切れず吹き出した主に、

「でも、しませんから!」

 そう釘を刺してくる、何だか決まりの悪い執事。

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