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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章
「分かったよ~。でも、そうだな~」
ケタケタ笑いながら、ヴィヴィは自分のバスローブの前を閉じる。
「なんです?」
「何年後かに、ヴィヴィが同じ様に朝比奈を誘惑した時は、もう少し悩ませられるくらいには、ヴィヴィ “いい女” になろうって思った!」
バスローブの紐を縛りながら無邪気に宣言するヴィヴィは、やっぱり朝比奈の目には “お子ちゃま” にしか映らないのだろうが。
ヴィヴィはこれでも一応19歳の年頃の女子なので、そうとでも言っとかないと、女のプライドが許さなかった。
「ふっ そうですね。今でも充分 “いい女” ですよ」
そう言ってくれた朝比奈の瞳は、心底愛おしそうに自分を見つめていて。
ヴィヴィはこくりと頷くと、最後にもう一回だけその胸に飛び込む。
「ありがとう、朝比奈!」
感謝の言葉と共にぎゅうと抱き着けば、ポンポンと撫でてくれる優しい掌に、ヴィヴィは安堵し。
「ふわわ……、なんだか、泣いたら眠くなっちゃった」
そう現金な事を発する主と、苦笑した執事は、そのままソファーで安らかな眠りに就いたのだった。
翌日、3月28日(火)。
朝日が昇る1時間半も前に起き出したヴィヴィは、しばらくはソファーの上に佇み、
執事が寝ているソファー越しに見える、ガラスサッシの向こうを見つめていた。
まだ暗闇の広がる水平線は、けれど少しずつ白みがかっていて。
それに引き寄せられる様に、ヴィヴィは立ち上がった。
朝比奈を起こさない様、広いダイニングに移動し、ガラスサッシを開いてウッドデッキへと出れば、
10℃を下回る朝の冷たい空気が、バスローブから露出した肌を刺す。
一瞬、部屋に戻ろうかと躊躇した時、
ザザン……と、一際大きな波の音が鼓膜を震わせた。
寒さよりもそちらに気を取られ、ヴィヴィはサンダルを引っ掛けた脚を運ばせる。
1歩踏み出す度に、耳の中に木霊する波音が大きくなっていく。
「………………」
ウッドデッキの隅に辿り着いたヴィヴィは、木の柵に両手を乗せ、
目の前にぼんやり浮かび上がる、灰色がかった水平線を見渡す。