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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章
「……マーヴィン、なんで印籠?」
首から徳川家の家紋の入った印籠を下げたマーヴィンに、本郷が首を捻る。
「え? だって印籠って強さの象徴なんだろ? 『この紋所が目に入らぬのか~!』って」
カナダと日本のハーフのマーヴィンが、腰に手を当てて印籠を掲げれば、
「強さの種類が違う……」とクリス。
「渋谷兄弟は……バカ殿?」
20cmはありそうな長いちょんまげかつら、を被ったマリアとアルフレッドを、小柄な宇野が見上げる様子は首が痛そうだ。
「だって、普通のちょんまげなんて、他のチームと被りそうじゃない?」とマリア。
「それに高いから、超目立つだろ~!?」とアルフレッド。
確かに、国別対抗戦は毎回 日本開催なので、各国が日本にゆかりのある応援グッズを調達してくる。
「で、ヴィヴィは、なにそれ?」
マリアが不思議そうな顔で、ヴィヴィが先程から引きずっている物体を指さす。
「巨大ハリセン。『なんでやねん!』って突っ込みながら叩くの」
1m大のそれを振り被ったヴィヴィは、一応手加減しながら隣のクリスを殴ってみる。
「Ouch……。なんか、変な道に目覚めそう……」
と、無表情ながら嬉しそうなクリス。
よく考えたら、生粋の日本人は宇野と棚橋しかいない、国際色豊かな日本チームなのであった。
初日、15:15よりアイス・ダンス SDから始まり、男子 SPを経て、18:40から始まった女子SP。
6ヶ国12名の選手が滑る中、11番滑走だったヴィヴィ。
可憐な『girls』の音楽に乗せ、満面の笑顔で滑る――ことは出来なかった。
少女から大人への軌跡を描いた、このプログラム。
その努力を全て否定された今、何を表現していいのか、見当が付かず。
笑わなきゃ。
作曲・演奏者の高木がくれた手紙を演技前に読みながらも、ヴィヴィの頭の中はその事だけで一杯だった。
笑わなきゃ。
五輪で自滅して、世界選手権で復活した――皆がそう思って、ヴィヴィを観てる。
周りは口を揃えて言ってくれる。
『ヴィヴィは笑顔が一番!』
『ヴィヴィの笑顔見ると、幸せになる』
『あ~、あの能天気な笑い顔っ』