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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章          

 オーケストラが奏でる、滑稽なほど悲劇的で重いフレーズ。

 両手で頭を抱えたヴィヴィは、白いマーガレットの簡素な花冠を、震える指先で辿りながら俯く。

 そうすると、どうしようもなく気持ちが堕ちて。

 それを吹っ切るように振り仰ぎ胸を反らしながら、上から波を描きながら片腕を下していく。

 ステップからの3回転ループ。

 五輪では転倒したそれを何とか決め、

 無意識にほっと息を吐きながら、着氷後の流れの中で上半身を項垂れる様に倒していく。

 足換えのコンビネーションスピン。

 レイバックで、氷面と上半身を平行に反らせた薄い胸の上。

 回転の中、組んでいた両手から右腕だけを上へと延ばし、人差し指と中指を天高く揃える。

 片手は胸に、片手は2本の指を立てて天に向けるそれは、

 “誓う” というバレエのマイム。

 アルブレヒトが恥じらうジゼルに示した “愛の誓い” を、ジゼルが握って止めさせた幸福な記憶。

 それを素早く左手で握り潰し、左足を抱え上げてI字スピンへと移行する。

(もう、ヴィヴィに愛を誓ってくれた人は、いない……)

 弦楽器が悲劇的に啼く旋律に対抗する様に、金管楽器が重苦しく下降を辿りながら吠える。

 そして、フライングから入ったキャメルスピン。

 ぶれない軸の中 上半身を反らせ、まるで命と引き換えに神に全てを託す様に、両腕を緩やかに垂らしていく。
 
 重厚なずっしりとしたオーケストラの響きが途切れ、演技後半に入った。

 少しずつ疲労の蓄積を身体の各所に感じながら、ヴィオラの旋律に操られる。

 軸足の左脚に沿い、銀に輝くブレードが昇って行き、

 腰高で曲げて上げられた右脚を、弧を描いた両腕と共に、頭よりも高い位置まで引き上げていく。

 緩やかな所作で両腕を腰前に下しながら右に向き直り、上げていた右脚を身体の後ろへと引き、氷と垂直に脚で1本の線を描いて見せる。

 愛する人を助ける為の、時間稼ぎのゆったりとしたその踊り。

 ふわりと前方へと伸び上がり、静かに氷を蹴り始める。
 
 バックで助走に入りながら、白い胸の前で伸ばして組んだ両腕。

 しかしそれは徐々に解かれ、何かを諦める様に両腕は降ろされていく。

 
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