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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章          

 2回転アクセルの踏切は、悪くなかった。

 しかし流れが途切れ、コンビネーションで飛び上がったトウループは2回転に。

 そして短い助走で踏み切らねばならないルッツ。

 助走スピードが足りず踏切ばかりに意識を置いていた為か、空中で身体を締め切れずに2回転で降りてしまった。

「………………っ」

 小さな頭の中に過ぎったのは、五輪の悪夢。

 けれど、ヴィヴィはぐっと歯を食い縛り、途切れた気持ちを切り替える。

 あの時とは違う。

 自分はまだ、一度も転倒してはいないし。

 そしてもう、

 自分の置かれた立場も認識している。
 
 とは言っても、体重が落ちた身体は、以前の様な持久力には乏しく。

 2回転フリップ+2回転ループ+2回転ループ。

 3連続ジャンプは1stが3回転にならず、疲労が滲み出た迫力に欠けるそれ。

 けれど、転倒はしていない。

 スピードの落ちた中、気持ちを落ち着けて氷をしっかりエッジで捉え。

 吸い付くスケーティングでスパイラルに入り、

 リンク一面、儚い精霊ウィリと化した白いその姿が、空気の流を捉える。
 
 そしてもう気合と根性だけで飛び上がったのは、3回転サルコウ。

 ジャンプ要素は熟し、それに安堵を覚えながらひとつひとつステップを踏み分ける。

 息が上がる。

 両腕も両脚も、これ以上ないほど重い。

 本当に精霊ウィリだったら、どれだけ楽にこのステップを踏めただろう。

 精霊ウィリだったら、後半のジャンプは重力も感じさせずに跳べた筈。

 けれど、

 精霊ウィリと成り果てたジゼルは、女王ミルタの命に背きながらも、裏切ったアルブレヒトの命を懇願するのだ。

「………………」

 どうしてそんな事が出来るんだろう。

 安全な十字架の前――自分の墓前に恋人を逃し、時間稼ぎの為にゆっくりと踊り。

 そして、

 その幽玄な踊りに誘われてしまったアルブレヒトが踊り続ける様を、常に傍で励まし、助け起こす。
 
 そのひたむきで見返りを求めぬジゼルの振る舞いの根底にあるのは、恋人に対する深い情愛。

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