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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章          

 愛している。

 たとえどんなに酷く裏切られようが、

 人間としての全てを失い、精霊と成り果てようが、

 愛している。

 何故なら、

 信じられるから。

 自信を持って言えるから。

 だって、

 貴方を愛した “あの時の自分” に嘘は無いから――。

 全ての終わりを告げる4の刻を知らせる、静かな鐘の音。

 フルートの穏やかな音色に乗せ、上半身を反らせたイナバウアーで移動し、

 全ての覚悟を決めた表情で飛び上がる、上半身を大きく後ろに反らしたバレエジャンプ。

 背のV字に縫い留められた幅広のフリルが、美しくはためくその姿に込められた想い。

 トウを片手で掴んだスパイラルは、徐々に上半身を引き上げながら、柳の様に長い両腕を運ばせる。
 
 フライングからのキャメルスピン。

 軸足を折り畳みシットスピンへ。

 ジャンプで軸足を変えて、レイバックスピン。

 締め括りのビールマンスピンを回る頃には、もうヴィヴィの気力も体力もぎりぎりだった。

 全ての終わりを告げるフルートの音色に、

 脳裏を過るのは、自分の墓の前で別れを惜しむ恋人の姿。
 
 信じたい。

 最後に一緒に舞ったその時間。

 ほんの少しでも、自らの行いを悔い改めてくれたと。
 
 2人手を携え、地面から這い上がったその瞬間。

 極限状態の中で、互いの心と身体が一つになったと。
 
 信じたい。
 
 自分というものを失った今、

 愛する人が心を入れ替えやり直し、

 自分を支えてくれる家族と幸せを築いてくれると。
 
 それが、

 その行いが、

 自分への一番の餞(はなむけ)になる。

(ああ、そうか……。だから……)

 今になってやっと “初版台本のラストシーン” に納得がいった。

 恋人アルブレヒトに、婚約者バチルドの手を取るように促したジゼル。

 自分が幸せにしてあげたかった恋人が、そうならないと解った時。

 ジゼルは思ったのだ。

『どうか、私が幸せに出来なかった分、愛するこの人を貴女が幸せに導いてあげて』

 ――と。

 そうして、ヴィヴィは最後の演技を締め括る。

 死装束の左胸の下、両掌を上に向けて添える、

 バレエのマイム “愛している”。

 その気持ちを懸命に籠め、

 震える目蓋を閉じ。

 やがて、ゆっくりと俯いた。

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